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株式会社サイバーエージェント(曽山哲人 氏)

樋口:
ところで年次にかかわらずアグレッシブな登用をされていると、素直な人材や意思表明できる人材にはチャンスが広がる一方で、逆転現象が生じてしまうことも当然出てくると思いますが、それに対する不満は生じないものなのでしょうか。

曽山
当社では非常に競争原理を働かせて評価していますので、同じ入社年度であっても仕事の裁量権や年収で大きく差が開きます。まだ本人が望む機会を得られていない場合、そのメンバーの本心では悔しいと思っているかもしれません。しかし当社では、昇格の基準を「実績があり」かつ「人望がある」という2点に置いています。このように基準を明確にしていると、仮に評価が低いメンバーが愚痴を言ってきたとしても、「結果を出せば評価される事例があるのに、愚痴っているだけでは恰好悪い」ということになります。このような風土をどれだけ作れるかがポイントです。ですから会社としてどのような人材を評価するのかは昇格や社員総会などの場で明確に打ち出すようにしています。

それでは組織としてやはりハイパフォーマーに重点を置いていらっしゃるということなのでしょうか。

100名の新卒が入社した場合、全員ポジションが上がっていい、給料を上げてもいいというのが根本的な考え方です。これは成長産業だからできることなのですが、全員で会社を伸ばして全員で裁量を増やし、全員で給料を上げられる環境はあるのです。いろいろ他社の経営者や人事の方とお話をしていると、評価の低い人の声が大きいがために彼らの底上げだけに時間をかけすぎてしまうことが時折あるようです。だからと言って評価の低い人材に手間とコストをかけている間に、トップ層がしらけてしまうことは何としてでも避けなければなりません。トップ層がしらけて退職してしまうことは、業績降下につながり、結果的に全員の給与が下がることにもつながりかねませんから。当社は終身雇用を目指しているので入社した以上全ての仲間が成果を出せるように支援していきますが、究極の選択でトップ層と最下位層のどちらかしか選べないとすると、トップ層に力を入れざるをえないと考えています。

トップ層に対する対応をしっかりしておけば、中間層もそれを目指して頑張ることができますからね。一般的には仕事の熟達度に応じて成果が上がったり安定したりする業態も多い中で、若くても成果を出すことができるのはどのような構造によるものなのでしょうか。

若い人でも最前線で戦えるインターネット産業に身を置いていることが大きいと思います。たとえばモバイル広告一つを見ても、大学3年生で初めて携帯電話を持った私よりも、小学生のときから使い慣れてきた若手の方が触れている期間が長いわけです。ビジネスを始める際にはそれ自体が強みになりますので、若い方が成果を出せるということに合理性があるのです。ただし入社年次が3年目や5年目といった近い年次同士では今申し上げたような大きな差はありません。この部分のマネジメントを行いやすくする一つの取り組みとして、「子会社化」することの成果は大きいと考えています。たとえば同じ事業部の中で08入社社員が07入社社員の上になってしまうと、07入社社員にも当然プライドがありますから、しらけてしまうこともあるでしょう。そこで子会社を作ってしまうのです。当社には08新卒のマネージャーもいますが、その場合その下に配置するのは08以下のメンバーのみです。ここには周りをしらけさせないための配慮があるのです。

「しらけさせない」というのは御社の人事を考える上での一つのキーワードですね。

人材の定着や組織活性化を促進させる上でこの観点を持っている人事は強いと思います。何にしらけるかは企業風土やそこにいる人材に左右されるでしょう。ですから経営が「しらけポイント」を察知する肌感覚を持ち合わせていることが必要だと考えています。

非常に重要だと思います。お話は変わりますが、御社ではやはり全社的に高い役割を与え、社員もそれを受け入れるような風土があるのでしょうか。

そういう場合が多いですが、与えられたポジションに対して「荷が重い」と悩むケースもたまにあります。このように自分を卑下することで「そのようなプレッシャーをかけないでくれ」と保険をかけることを当社では「卑下の保険」と呼んでいます。このこと自体は悪くはないのですが、これには罠があります。新しいポジションの提示というのは、上司が本人のことを思って一生懸命に考えた結果です。ですから一度断られると次の提案にはものすごく慎重になってしまうため、結果的に次のキャリアに進む機会が減ってしまうのです。このようにチャンスを自ら減らさないためにも、上司の依頼は基本的には受けた方がよいということは伝え続けています。

やはりそこは柔軟に受け入れるという姿勢が大切ですよね。マネージャーになる人材に対して何か特別な教育はされているのですか?

当社では毎月のように昇格があるので、年間を通じて若い未経験のマネージャーがどんどん増えます。そこで去年から新人マネージャーのための研修を四半期に1回おこなうようになりました。内容はマネージャーとしての考え方を学ぶもの、先輩マネージャーに対する質問会、面談力研修、労務や法務知識の習得などです。

質問会とは具体的にどのようなことをお話されるのでしょうか。

たとえば6名ほどのチームに役員やマネージャーを配置し、研修参加者から質問をさせるのです。質問内容は自由で、「今までで一番の修羅場は何ですか」「そこから何を学んだのですか」など様々です。参加した側も自分が聞きたい質問ですから学びの意欲もとても大きいですし、一方通行の話より生の経験談からリアルに学べる効果は本当に大きいものがあります。マネジメントのノウハウは生で聞いて、生で感じて、実践しないと意味がありません。要するにこれはアナログのナレッジマネジメントなのです。また研修後には毎回飲み会もおこないますが、ここでも質問会と同じような状況が続きます。この日は役員・マネージャーに何でも質問してよいということが浸透していますので、みんな自分の悩みや勉強方法などいろいろなことを質問してきます。

とても面白い取り組みですね。当社でも取り入れたいです。面談に関しても研修を実施されているとのことですが、社内で面談は頻繁にされているのですか?

当社では月に1回の面談を推奨しています。これは私自身の経験でもあるのですが、半年に1回の査定面談でいきなり査定を伝えられると納得できないこともありますが、毎月言われ続けていると、その分納得感が増すものです。また当社では目標が頻繁に変わるなんてことは日常茶飯事で、私が人事本部に異動した2005年頃はこれに起因した評価不満が多く人事本部に届いていました。そこで面談の実施を呼びかけるようになったのです。実際に面談を周知してみるとその効果は明らかで、面談をしていない部署では異動希望や上司不満が出やすいのです。