経営者人事対談 > インタビュー記事一覧 > Vol.030 ヘンケルジャパン株式会社(ディーナ・ウー 氏)

国際的な人材活用には透明性が必要 ヘンケルジャパン株式会社(ディーナ・ウー 氏)

世界125カ国で事業を展開し、50,000名を超える人材を擁するグローバル企業ヘンケル社。アジア太平洋地域における重要拠点であるヘンケルジャパン株式会社の人事ディレクター、ディーナ・ウー氏に多国籍企業の人事の取り組みについて伺いました。

樋口:
実は海外から日本の人事部に赴任された方へのインタビューは今回が初めてです。まずはディーナさんのご経歴からお聞かせいただけますか?

ディーナ
ヘンケルに入社したのは15年程前です。以後ほとんどの期間、人事部門に携わってきました。その間、コーポレート部門で働いたり、担当部門やグループの人事事項全般をサポートするビジネスパートナーとしてビジネスユニットで働いたこともあります。また中国では人事マネジャー、アジア太平洋地域統括のビジネスパートナーの立場も経験してきました。

中国では上級人事マネジャーのご経験があるということですが、中国と日本では人事部門のトップとしてのミッションに何か違いはあるのでしょうか。

まず中国国内での現状について申し上げますと、中国は事業規模が非常に大きく、4,000名の社員を擁する大所帯です。ですから、すでに人事システムもしっかりと作られたものがあり、この人事システムをいかにうまく機能させ、それによっていかに利益を生み出すかということが人事として第一に考えていることでした。また、採用した人材を定着させることにも力を入れていました。特に上海など、中国の東部地域には多くのグローバル企業が拠点を移してきています。そのため優秀な人材の奪い合いが激しく、特に中間管理職層はどの企業でも需要が高く、よく引き抜きがおこなわれています。これは企業の競争力につながりますから、優秀な人材を採用すること、そして定着させることは、人事部にとってとても重要度の高いミッションなのです。一方、日本においては、アジア太平洋地域というビジネスユニットの一員として機能を持たせることがこれからの挑戦だと思っています。

具体的にはどういうことなのでしょうか?

ヘンケルジャパンはこれまで日本国内において独立経営をおこなってきました。これは人事部門に限ったことではありませんが、独立しているが故に、ヘンケル社のやり方ではなく、日本独自の方法を取り入れているケースも多々見受けられました。ヘンケルは多国籍企業であり、各国で成功したことはベストプラクティスとして取り入れる風土があります。ただし、そこに透明性がないと、そもそも事例の共有ができませんし、国際的な基準に沿っていないと見られてしまう可能性があるのです。日本の風土に合わせた独自のやり方ももちろんあってしかるべきですが、アジア太平洋地域というユニットの中での進め方とバランスを保つことも必要なのです。
たとえばジョブローテーションもその一例です。ヘンケルでは、優秀な人材は国境を超えて活用することを推進しています。そのため、日本国内で採用した人材もアジア太平洋地域全体を視野に入れて仕事を与えていきたいと考えていますし、海外赴任も視野に入れています。しかし、いざ異動となった時に、日本と地域の人事評価制度が連動していなければ異動をするにしてもハードルが高くなってしまいますよね。ですから柔軟に人材を活用していくためにも、透明性を確保し、地域と連動させることは必要なのです。
また、透明性を確保することは、人事以外の場面でも必要とされています。当社はヘアコスメティクスを始め、接着剤などさまざまな事業を有しています。その中のひとつである自動車事業は日本に拠点を置いているため、日本での意思決定が海外の自動車事業部門に影響を及ぼすことになります。ですから、何事も国内で完結させてしまうのではなく、グローバルに波及させていく役割が求められているのです。

日本の企業は独自のやり方を持っていることが多いですからね。企業だけではなく、日本では労働マーケットもこれまでとても閉鎖的でした。伝統的な大企業が幅を利かせており、新卒採用で優秀な人材を囲い込んでいました。ところが昨今社会が変化し、人材マーケットでも国際競争が起り始めています。日本人はこのグローバル化に対して少し動揺しているというのが今の状況だと思います。特に多くのビジネスパーソンにとっては、英語が一つのキーワードになっています。