経営者人事対談 > インタビュー記事一覧 > Vol.047 ワタミ株式会社(岡田武氏・平岸敬吾氏)

経営と現場社員の目指すベクトルが合っているかが会社の強さ ワタミ株式会社(岡田武氏・平岸敬吾氏)

1984年の創業以来、日本の外食産業をリードし続け、介護、農業などの新たな分野でも躍進を続けるワタミグループ。グループ全体の採用を統括し、企業理念の共有に徹底してこだわるワタミ株式会社人材開発グループグループ長 岡田 武 氏と採用・教育チーム課長 平岸 敬吾 氏に、採用時における理念のすり合わせの重要性や入社後の価値観共有の取り組みについてお話を伺いました。

新卒採用では学力検査を行わない

樋口:
まず人事部門のチーム構成について教えていただけますか?

岡田:
今、私はグループ全体の採用、教育、人事など全般に関わっています。採用に関しては平岸がグループ全体の統制や調整を担当しています。

平岸:
今、活動を行っているのは13年度、来年の新入社員採用です。350名採用する計画で、事業による内訳は外食事業で150名、介護事業で200名です。それに加えて中途採用も行っています。中途採用では12年度は1年間で1,200名採用する計画です。

樋口:
すごい人数ですね。

平岸:
外食、介護、宅食などの各事業会社の中にそれぞれ採用、教育を担当する部署がありますので、実際の採用活動は各社が行ないます。私たちの部門はその統括をおこなっており、中途採用に関しては採用時に伝えるグループ共通メッセージや基準の設計、新卒採用に関しては母集団形成などを担っています。

樋口:
そうすると新卒採用の母集団形成以降は、各事業会社でやられるのですね。これまでいろいろな人事部の方とお付き合いをしてきましたが、そこまで分担されているのは初めて聞きました。かなりの人数を採用していらっしゃるとのことですが、採用で一番力を入れていらっしゃるのはどういうところなのでしょうか。

岡田:
当社は理念を経営の中心に置き活動している会社ですので、当社の価値観と合っているかどうかはとことん見るようにしています。よって新卒の採用活動では、学力テストや適性検査は一切やっていません。基本的にすべての選考がフェイス・トゥ・フェイスです。最初のステップである会社説明会では「トップセミナー」という形で創業者である渡邉が直接理念を伝える機会を設けています。講話内容は何のためにこの会社が存在するのか、どこに向かっていくのか、どのように存在するべきなのか、といったことを、とにかくとことん伝えていきます。私どもの会社の価値観に合う人(理念に共感できる人)だけに入社してほしい。ですから、「誰にとっても良い会社ではない」というメッセージも臆せずに伝えます。これはネガティブな意味合いではなく、価値観に合う人(理念に共感できる人)にとっては良い会社だということなのです。

樋口:
メッセージを伝えるということが、人材開発部の主な仕事なのですね。御社についてはホームページで勉強してきたのですが、あらためて御社が応募者に伝える内容をお伺いしたいです。

岡田:
最初に伝えるのは創業の思いです。ワタミの場合はお金ではなくて、“ありがとう”を集めることをグループのスローガンとしています。“ありがとう”を集めて広がっていった先が、外食からはじまり、農業であり、介護であり、宅食である、と伝えています。つねに当社が何のために存在するのか、この事業がなぜあるのか、何を大切にしているのかは入社時に限らず、入社後も徹底して共有を行ないます。例えば理念研修を3カ月に1回開催しており、これは全グループ社員が年に4回参加することになっています。そこで、この会社の原点ってこうだったよねと、合わせて自分自身の原点を振り返るようにしています。
他にも全体会議といって、半年に1回全社員を集めて事業の戦略を伝える場を設けていますし、同じように全社員が集まる場として創業祭というイベントもあります。当社はこのように社員が一堂に会す場が非常に多くあります。それはなぜかというと、みんなで空気感を確認する、みんなで一堂に会すことで同じ思いを共有するといったことに意味があると考えているからです。

樋口:
既存の社員まで定期的に理念研修をするとなると、労力もお金もかかりますよね。どうしてそこまでされているのでしょうか。

岡田:
確かに教育は、効果を測りづらいところがあります。投資した分、どれだけの成果があったのかと外部の方からはよく聞かれます。ワタミの仕事はほとんどが労働集約型で、基本的には額に汗をする仕事です。外食や介護などの現場で働いていると日々いろいろなことが発生しますから、目の前のことで精いっぱいになることもあります。私も外食での店舗勤務時に「自分は皿を洗うことが仕事なのか・・・」と思ってしまった時がありました。ですから何のために今の仕事をしているかということを定期的に思い出す機会が必要なのです。そういう意味で理念研修は必要だと思っています。

樋口:
日々の仕事に追われて目的を見失ってしまうのですね。そのような現場だからこそ、採用時点でも理念を大切にしているのでしょうね。