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Pay For Contribution ―縁の下の力持ちも評価される会社に  株式会社アトラエ 代表取締役(新居 佳英氏)

仲間に求めるのは、パッションレベルと価値観への共感

【採用で重視していることについて】

樋口: それでは、いきいきとやりがいを持って働くための価値観を共有する入口、採用についてお伺いします。選考時に、入社して幸せになれるかどうかをどのような会話や方法で検証し、迎え入れているのですか。

新居: これは非常に難しいですね。基本的にはまず人となりを理解する必要があると考えているので、特殊な質問で何か一発で分かるということはなく、その人の生い立ちや価値観から、これまでの人生においてなぜその選択をしてきたのかということを聞きます。スキルや能力の部分は、もちろん一定レベルは見ていますが、見間違うこともあるので最初の段階ではそこまで気にしていません。それよりも、何かに意欲やパッションを持てるということと、そのベクトルが我々と同じ方向を向けるかどうかという共感の部分、この二つだけ深く掘り下げますね。いままで何かに情熱を注いだ経験、それがどの程度のレベルだったのか。また、なぜアトラエのビジョンに共感するのか、どのような原体験からそう思うのかなどを聞いています。

樋口:それは、新居さんが全員と会われて実施しているプロセスなのですか。

新居: はい。原則、一回は必ず会います。ただ、他に面接に関わっているすべての社員が私と同じような面接をしているわけではありません。社員には、細かいテクニックよりも、本当に一緒に働きたい人物かどうか、隣にいても違和感がないかどうかを見極めてもらっているイメージです。


幸せ度は80点 まだまだ、改善できるはず

【現在の幸せ度について】

樋口:非常に難しい質問かもしれませんが、そうしてこれまで採用してきた社員の幸せ度について、社長という立場からみて現状何点くらい実現できていると思われていますか。

新居: 低くはないと思いますが、難しいですね。私が社員側でしたら、まだいくつか改善したいという部分が残っているので、80点くらいでしょうか。

樋口:ご自身が社員だったらと考えるのですね。

新居:もちろんです。私が逆の立場だったら課題だなと思う部分はあります。例えば、事業のスケールやスピード感、ポジションの数などは、まだまだできることがあると考えています。経済面においても、この会社で頑張っていれば間違いない、だからビジネスにフォーカスできる、という状態まで持っていきたいですね。

樋口:経済面というお話がありましたが、上場することは社員の幸せ度を上げるものですか。

新居:そこまでではないかもしれません。もちろんネガティブではありませんが、社員のためになるかということよりは、会社を伸ばしていく上で非常にポジティブなオプションであると思っています。結果的に事業の成長は社員にとってポジティブではありますが、一部上場企業であることのステータスや物理的なメリットはあまりないかもしれないですね。


担当範囲外のことでも貢献できることはどんどんやる、というポリシー

【Pay for contributionについて】

樋口: 新居さんのブログを拝見するなかで、Pay for contributionという言葉を目にしました。私は外資系出身でPay for performanceの方が馴染み深いため、とても新鮮に感じました。ぜひ、違いや意図を教えてください。

新居: そうですね。Performanceという言葉は、日本語では成果と訳されていますが、会社で成果というと利益や売上に気持ちがいきやすいと思うのです。しかし、売上を上げている人が一番大事な人なのかというと、必ずしもそうではない部分があると思っています。具体的には、広報や人事、エンジニアやデザイナーなど縁の下の力持ちのような人たちがいて成り立っていると考えています。例えば、皆でひとつの家を建てるプロジェクト。誰よりも早く自分の担当の壁を作り上げた人を評価することにあまり意味はありません。そうではなく、素晴らしい家をつくる、このプロジェクトにどれだけ貢献したかが大事だと思っています。つまり、会社全体の社会に対する価値提供にどれだけ貢献したかを評価するということです。そのため、自分の担当範囲外のことでも、貢献できることはどんどんやるということをポリシーにしています。それが、我々の考えるPay for contributionです。もちろん、contributionの一部がperformanceでもあります。

樋口:良いお考えですね。確かにPerformanceというと成果という強いイメージが先行して伝わってしまいがちですが、Contributionは分かりやすい言葉ですね。

新居: ありがとうございます。やはり、平等にパフォーマンスを測ることは難しいと考えています。営業において、難易度の高い地域を根気よく開拓して収益化させることの方が本当は大事だとしても、たくさんクライアントを持っていて売上を上げている人の方が評価されやすい。こうした矛盾をこれまでも見てきました。私自身は、例えばもし野球の監督をやるなら、勝ち続けなければならないプレッシャーの中で強いチームを指導するよりも弱いチームを立て直すことの方が面白いと感じるタイプです。やった方が良いことを皆が意欲的にやれる評価制度を考えたときに辿りついたのがPay for contributionでした。今でもこれをどう測るかということは社内でも試行錯誤している最中ですが、このポリシーだけは決まっています。

樋口: 実際の評価は難しいと思いますが、おっしゃるように、価値観を共有する仲間が何かをやる上では、それぞれの役割の人が、皆から認められるという文化がとても大事だと思います。当社は評価制度とは独立して、年に一度社員の投票による表彰を行っていますが、やはり人間性の良い人が選ばれる傾向にあります。そうした実感もあり、Pay for contributionのお話を伺って、率直に面白いなと感じました。

新居: 我々のcontributionは全て360度評価で決めています。被評価者が評価者を5人指名して、その5人から貢献というキーファクターで評価をされるという仕組みです。貢献を業務遂行力とチームビルディングの二軸で測り、スコアリングされたものが貢献度合いとして定量化されます。評価者と呼ばれるマネージャーや役員がいるケースが一般的だと思いますが、我々は全員がこの会社の一員であり、全員が経営者であるという概念を持っています。そのため、誰かが評価権利、給与の決定権を持っているという状態ではなく、できれば市場性にゆだねたいと思っているんです。評価の軸自体は、今後ブラッシュアップしていく予定です。