経営者人事対談 > インタビュー記事一覧 > Vol.025 株式会社ファンケル(松ヶ谷明子 氏)

株式会社ファンケル(松ヶ谷明子 氏)

樋口:
他の企業においても、ここ数年で違うタイプの人材を入れようという声を良く聞くようになりました。松ヶ谷さんのおっしゃるように世の中が変わってきているので、「このままだとダメだ」と考えている経営者や人事のトップが多いのでしょうね。では実際の面接ではどのようなことを聞かれているのでしょうか。

松ヶ谷
一例を挙げますと、代表の成松(代表取締役社長執行役員 成松義文氏)に「好きなように面接をしてよい」と言ってもえらえたので、これまでの選考の結果を家族に話したかどうかを聞いてみました。学生さんとご両親との会話を聞いていくと、本人の優しさや意思の強さが私の中で整理できるのです。
今年面接をした学生の中で印象的だったのは、「本当は研究者としてもっと勉強をしたかったのだけれども、祖父の年齢を考えて、自分が働いている姿を見せたかったので就職活動を始めました」という学生です。「あなたの夢をそこで断っていいのですか?」と質問すると、「ファンケルでは仕事をしながらも、従業員の夢を応援してくれる風土があると感じています。」と答えてくれました。その優しさと諦めない心に思わず泣きそうになってしまうほどでした。

素敵なお話ですね。やはり「優しさ」と言うのは御社の中で重要なポイントなのですね。お話は変わってしまうのですが、松ヶ谷さんは社員が企業の中で成長するかどうかは採用と育成のどちらの影響が大きいとお考えですか?

個人的な感覚ですが、私は採用4割、教育6割だと思います。私自身は前職とファンケルを通じて教育部門に15年ほど在籍してきています。ですから、従業員を取り巻く制度や教育でどうにかなることも多いと考えていますが、やはり資質に左右されるところもあるなぁと感じています。

これは答えがあることではないのですが、同じ質問を投げかけると、中小企業の場合は採用だと答える方が多く、大企業ほど教育だと答える方が多いものです。おそらく大企業の場合は中小企業に比べてバランスの良い人材が採れるので教育で差がついていくような実感値があるのだと思っています。

意外です。一般的にはもっと採用を重視するものだと思っていました。伸びるか伸びないかは配属される部門にもよるのではないでしょうか。たとえば宣伝部門や企画部門はやはり資質に拠るところも大きいのだと思いますが、お客様に接する部門は特に教育に拠るところが大きいように感じています。たとえば、一般的にアルバイトの中には初めから志が高い方もいらっしゃいますが、実はごく少数だと感じています。ほとんどは「嫌だったら辞めよう」と腰が引けた状態なのではないでしょうか。しかし、この人たちに仕事のおもしろさを教えてあげると、見る見るうちに変わっていきます。それにお給料や制度を付け加えると、人が変ったようになることも少なくありません。

教育や環境で変わることが多いのですね。教育といえば、近年せっかく優秀な人材を採用し教育しても、すぐに辞めてしまう事が多いといわれていますが、御社ではいかがでしょうか。

新卒に関しましては、過去3年の離職率が6パーセント程度の低水準を維持できています。

世間一般では3割を超していますから、それはすごい数値ですね。

当社の離職率が低い理由には2通りの解釈が考えられます。一つは甘いのではないか、もう一つは本当にやりがいがあるか。おそらく両方なのだと思うのですが、採用にはお金がかかることですので、採用した人たちが辞めないということは良いことだと解釈しています。先ほど申し上げました「社員にとっても優しい会社」という事が、この数字にも表れていると思います。

御社は女性社員の比率が非常に高いと伺っています。一般的な企業では女性は結婚や出産を機に退職される方も多いですが、御社ではそのような方は少ないのでしょうか。

実は当社は妊娠、出産を理由に退職する者は一人もおりません。産休の取得率も復帰率も100パーセントです。2009年度に当社で産休制度を利用した働くお母さん社員は45名います。これは全体の5パーセント以上に当たります。産休に入る際には人事から発令を出すのですが、産休に入る人数自体が多いので、いつもこの発令に追われているイメージです(笑)。