経営者人事対談 > インタビュー記事一覧 > Vol.042 株式会社経営共創基盤(冨山和彦氏)

事業継承成功のカギはオーナーの了見 株式会社経営共創基盤(冨山和彦氏)

冨山:
今の学生は、自分は器が小さいと思っているからこそ、誰でも知っているような有名な組織に入るためにものすごく努力するという傾向が濃厚です。ですから、今おっしゃるような人に出会える確率は極めて低くなっており、大企業に勤めている人間のキャパシティは、どんどん小粒になっています。
しかし、これは宿命だとも思います。例えばスタンフォードを卒業してIBMに入ると言ったら、正直に言うと「それは残念だったね」と思われますから。普通ベスト・アンド・ブライテストはIBMに入らないですよ。最近はグーグルでも怪しいと思います。今更グーグルかと思われてしまいます。かつてはベスト・アンド・ブライテストといわれている人材のほとんどが大企業に就職していたから、大企業の組織は最もコンペティティブな職場環境だったんですよ。しかし、今は申し上げた通りですのでコンペティティブではありません。小粒になっているのは経営者も同じです。有名な会社を並べたときに、80代の経営者、70代、60代と世代を下ると基本的に小粒になっている。60代、50代はもっと小粒です。それは彼らが悪いのではなく、そういう時代なのです。ですから30代の大物人材はおとなしくサラリーマンなんかやらずに、自分で事業を始めています。

樋口:
やはり、優秀な人材は大企業に属さなくなっているのですね。

どちらが自分の身を鍛えるのに良いかですよね。中小企業は、よくつぶれかかりますし実際につぶれるところがいいと私は思います。30歳前後に中堅、中小企業で一回ぐらい会社更生の体験なんかしておいたほうがいいでしょう。若い人にとって、会社がつぶれることは大した問題ではありません。自分の責任ではありませんし、連帯保証人でもありませんから。大企業の中で鍛えられたとしても、実は“ごっこ”なんですよ。例えばどんなに上司にいじめ倒されようが、どんなに左遷されようが、クビではありません。多少左遷されたって、給料は変わりませんから。サラリーマン小説で絶望的なことが書かれていることがありますが、別にどうってことはありません。大企業のサラリーマン社会で「大変だ、大変だ」と言っている話は、中小企業の世界を当事者として味わってみると、“ごっこ”に過ぎないのです。現実の中小企業の経営で会社がつぶれる、つぶれない、全員解雇する、しないという局面のほうがよっぽど経営の勉強になりますよ。

冨山さんがクライアントと関わるとすると、大企業と中小企業とどちらが面白いのでしょうか。

一番おもしろいのは優秀な中小企業の経営者と関わった時ですよ。命を懸けていますから。優秀な中小企業の経営者は、普通の頭でっかちのコンサルタントに深刻な相談はしません。有名なコンサルティング会社であっても、感覚的に合わないからです。
大会社でインテリが多くいる世界は、とにかくガバナンスにうるさいですし、きちんと調べたというエビデンスを多く残さなくてはなりません。こういった知的じゃれ合いをしていかなければならない事情があるから、東大卒や京大卒、ハーバード卒といった人材がいるようなコンサルティングファームを大量に導入するのです。ただし、仕事を依頼している側も、個人のレベルでは結局のところ“ごっこ”の世界で生きているので、自分が多少判断を間違えたからといって潰れるわけではありませんし、大きく見積もったとしても左遷です。せいぜい派閥争いで社長になれませんでした、だから関連会社の社長になりましたというだけで、世間から見れば大差ない話です。その世界で通用する相談相手の世界と、自分が命と体を張って、かつ野心を持って経営をしている世界で通用する相談相手は全然違いますよ。残念ながら腹のくくり具合が違うので、相手も体を張ってきた人間じゃないと会話になりません。アジアに行くと中国も韓国もほとんどオーナー会社ですから、小理屈で会話になるかというと、なかなか相手にされないです。


ありがとうございました。多くの企業を見てこられたご経験から裏付けされたお考えが大変興味深かったです。私自身ぼんやりと思っていたことを言語化していただいた思いです。本当に貴重なお話をありがとうございました。

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株式会社 経営共創基盤

■会社名:株式会社 経営共創基盤
■代表者:冨山 和彦
■所在地:東京都千代田区神田練塀町3番地 富士ソフトビル13階
■URL:http://www.igpi.co.jp
■事業内容 :
 長期的・持続的な企業価値・事業価値の向上を目的とした『常駐協業(ハンズオン)型成長支援』
 成長支援や創業段階での支援あるいは再生支援等、企業や事業の様々な発展段階における経営支援を実施