経営者人事対談 > インタビュー記事一覧 > Vol.050 特定非営利活動法人Teach For Japan(松田悠介氏)

心がけているのは、組織の1人1人が学び続ける組織作り 特定非営利活動法人Teach For Japan(松田悠介氏)

今後はリスクをとれる人が必要とされる

樋口:
別の観点から質問させてください。リスクをとって何かを達成し、貢献するという松田さんのような生き方をなさっている方は決して多くありません。どのようなマインドからそのような生き方を選択されているのでしょうか。

松田:
私はリスクを取らないことが最大のリスクだという考え方を大切にしています。これから訪れるのは、予測不能で不確実性が極めて高い社会だと思います。今でもそうですし、30年後や50年後はそれが一層顕著になってくる社会なのだろうと思うんです。その中で力を発揮できる、もしくは生き残っていく人たちは、その不確実性に一歩踏み込んで課題解決をしてきた人たちで、そういう人が社会に求められるのだと思うのです。
しかし、今、多くの学生が新卒採用文化の中で就職活動が成功しなかったら自分の人生が終わると感じていたり、本当はNPOの活動をやりたいのだけれども親の反対や、生活していけるかどうかに不安を感じ、二の足を踏んでいます。けれども私は自分が本当にやりたいと思うなら、自分に正直になることが自分自身の幸せにつながっていきますし、そういったリスクを取って課題解決の力をつけていく人こそが、今後社会に求められていく人材となっていくのだと思います。そこに関しては、トップ1%の学生は気付いていると思いますね。

1%ですか。少ないように見えて結構大きいですね。

われわれの組織に携わる学生を見ていると、若者の元気がないというのは必ずしもそうではないと思います。彼らは将来が不確実だと気づいていますし、同時に20年後のビジョンを描いています。これまでの日本でのキャリアは大手企業で終身雇用というのが1つの潮流でしたよね。しかし、彼らは大企業の倒産を見ているんです。だからこそ、何が起きても世の中に求められる市場価値の高い人材になるために、今の段階からリスクを恐れずに課題解決をして、もしくは世界に出て、力を身に付けたいと思っているんですね。そのような背景からベンチャーやNPOに新卒で入る学生や、当団体の2年間のネクスト・ティーチャー・プログラムに興味を持つ学生が増えてきているなあと感じています。
無謀なのとリスクをとることは、もちろん全然違います。しっかりと計算し、考え抜いた上で1歩踏み出す。これを積み重ねれば、企業の中でも企業の外でも10年後、15年後必要とされる人材になるはずです。

そうでしょうね。リスクを取るということは、常に松田さんの意識の中にあるんですか?

常に考えているというわけではないですが、抱いている問題意識について、目指すべきゴールと期限があったときに、リスクがあればそれを踏み越えるか、踏み越えないかの問題だと思うのです。そこを超えないとあるべき姿にはたどり着けないだろうな、と感じるのです。その意味では、大企業を辞めて、社会的地位も収入もゼロにするのも1つのリスクです。

松田さんやトップ1%の学生さんは、こうなりたいというビジョンか目標をしっかり持っていて、そこに行くステップを考えると、大企業の組織に入ることが合理的ではないと判断し、結果、大企業から飛び出しているんですね。

そう思います。自分のしたいことが企業ではできないだろうと思っているのかもしれませんね。とはいえ、アントレプレナーとしてリスクを取れる人たちは、恐らく企業に入ってもアントレプレナーになる素養は十分持っていると思っています。ただし企業を客観的に見たり、もしくは企業で働く人々の話を聞いたりして、自分のしたいことができなさそうだと判断した結果飛び出すんですね。ですから、彼らに最初にあるのは目標やビジョンであって、リスクを取ることを第一に考えているわけではないでしょう。

本能に近いですね。生き物としてどう生きるかが大きいのでしょう。私がもし今の時代の学生だったら、大企業への就職を危ない、押さえつけられると感じてしまうと思います。

しかし、リスクをとる生き方も楽ではありません。最近は、はっと起こされることとか、汗をかきながら寝ていることは増えてきました。こうなってきたのは、人を採用するようになってからですね。家庭を持った人たちもいます。そういう方々が私たちの活動に加わったとき、2年後、3年後にしっかりと志を生かして働ける環境を作らなくては・・・と考えると、重大な責任を感じます。責任の重さは職員のことだけではありません。私たちはTeach Forのモデルを信じて日本に導入したわけですが、もしこれが失敗したらこの先10年くらい似たようなモデルが日本で導入されることは難しくなってしまいます。新しく似たようなモデルが出てきたとしても、教育委員会も「やっぱりあのモデルはだめだった」と二の足を踏むでしょうし、企業の方々も「以前支援したのにだめになってしまった」と支援しなくなってしまいます。そうすれば、次にやろうとする人もやりにくくなってしまうでしょう。