経営者人事対談 > インタビュー記事一覧 > Vol.062 株式会社ネットプロテクションズ 代表取締役社長(柴田 紳氏)|

経営の原動力は、社員全員で再構築した企業理念  株式会社ネットプロテクションズ 代表取締役社長(柴田 紳氏)

【はじめに】
前回の対談から5年。ネットプロテクションズ社が掲げていた採用へのこだわりは、組織にどのような変化をもたらしたのか。また、どのような成果につながったのか。組織の現状や今後の新たな展望について、同社代表取締役社長(CEO)柴田 紳氏に伺いました。

理念や風土を強固にしたまま数十万人規模となった企業風土を体感して

樋口:【USツアーの感想は】
2016年5月下旬、「最先端の人事・経営を見たい、感じたい」という私の思いで始まった米国グローバル企業視察ツアーも、5回目の開催となりました。総勢30名、御社からは柴田さんを含め2名でご参加いただきましたが、いかがでしたか。

柴田: シリコンバレーの空気感を体感し、経営に活かすことを目的として、今回初めて参加させていただきました。ツアーを通じての最大の学びは「HP way」について実際に米国Hewlett Packard Enterprise社の社員からお話を聞けたことです。「HP way」の内容自体が素晴らしいと思いましたし、当社の理念との類似点がかなり多かったことも大きな自信になりました。理念の浸透に関しては、よく「従業員数が少ないからできるんだよ」と指摘を受けることが多いのですが、「HP way」という理念、企業風土を維持して数十万人規模の組織まで拡大できるのだという事例は私にとってある種の安心感につながり、当社も理念を大切にしたままもっと規模を大きくできると確信しました。


理念の再構築による組織の成長

樋口:【直近5年の組織の変化は】
5年前、組織づくりに関して伺った際は、ご自身で現場の実務や育成を実践されることに限界を感じ、柴田さんご自身のように修羅場をくぐってきたハイモチベーターの方を採用しているというお話を伺いました。丁度任せた組織が自走し始め、成長できる土台が整ってきた、ということだったのですが、その後の成長はいかがですか。

柴田:2012年頃に修羅場を迎えることになったのですが、それを乗り越えたことを機に、いま伴走しているマネージャー達はすごく成長していますね。この修羅場とは、全社員で約1年かけて実施した理念の再構築です。社員から「ビジョンが見えない」という声が挙がるようになったことがきっかけでスタートさせたもので、当時50名ほどいた社員を8チームにわけて「自分が社長だったらどんな会社にしたいか」というテーマで、3ヵ月かけてビジョンを考えてもらいました。その後に各チーム代表のリーダー層と社長である私とで話し合い、最終版を8ヵ月かかってつくったのですが、これが大変な修羅場でした。リーダー層の意見は、いつもは私の考えを中心に割とすんなりとまとまることが多かったのですが、その時はそれぞれがチームの代表ということで思い入れも強く、なかなか合意に至れなかったのです。私も理想と責任の狭間に悩んでいましたね。丁度外部環境が変わった時期でもあり、理想の追求だけをすることもできず、幹部層10人くらいが対等な立場で終わりの見えない議論を続けていて、本当にしんどい思いをしました。

絶対 欠かせないステップから生まれた、社員が伝道師となって語られる「風土ビジョン」

樋口:【理念の再構築を行った理由は】
敢えて「何もしない」という選択肢もあったと思いますが、目をつぶらなかったのはなぜでしょうか。そして、話し合いの結果どうなりましたか。

柴田:理想像に行き着こうと思うとそれしか方法がなく、「まあまあ良いからこのままでいい」とは全然思えませんでしたね。今でも絶対に欠かせないステップだったと思っています。理念をメンバーと共に再構築できたことで、目標や価値観が100%合致し、私以外の伝道師が増えました。結果的に、最終版完成に向けて議論したリーダーの3分の1が辞めることになってしまいましたが、一方で共通の理念を掲げる仲間の密度が上がったのも事実です。苦しいプロセスではありましたが、今振り返ってみても経営戦略上極めて大きかったのではと思っています。社員が自発的に発行している社内報でも、毎月表紙を開けたところに新しくなった企業理念が掲載されています。元々あった”Mission”と”Value”についてはブラッシュアップされ、”Vision”が話し合いを通じて新たにできたものです。事業ビジョンというよりは風土ビジョンで、それが明文化されたことにより、皆がどんな組織を目指すべきかの指針ができたと思っています。