経営者人事対談 > インタビュー記事一覧 > Vol.002 セールスフォース・ドットコム(鈴木 繁 氏)

セールスフォース・ドットコム 鈴木 繁 氏

樋口:
コンペティターはいらっしゃるのですか

鈴木:
わたしどもの一番のコンペティターは、歴史のある大手のソフトウェア・ベンダーですが、こうした企業は、かなり規模の大きな会社しかお客様にならないわけです。このようなメーカーが提供しているようなシステムを50人とか、100人の会社が使おうとしても、これは全くコストが合いませんので顧客にならないですね。わたしどもの場合には、インターネットで繋がってさえいれば、わたしどものデータセンターにアクセスして利用できますので、企業の規模を問わず使えます。つまり、従来にはない新しいビジネスモデルといえます。要するにわれわれは、今までなかったものをやろうとしているということを理解して、一緒にそういった波をつくっていこうという人に来て欲しいと思います。誰しも入社してから100パーセント順調に行くとは限りません。壁にぶつかった時に、このことを理解していれば、乗り越えられると思います。

大事なモチベーションですね。御社の採用情報を拝見するとあまり未経験者は積極的に採用していないように見受けられますが、逆に言うと、未経験者を営業部門で採用するとすれば、どういう仕事の経験を尊重するのでしょうか。

未経験者の場合は、ある程度ポジションが決まっていて、わたしどものホームページやセミナーなど通じてわたしどもにコンタクトされた方々に対して、電話でお話をさせていただきながらニーズを掘り下げ、案件として提案できる見込みがついた段階で営業に繋げるインサイドセールスという仕事になります。未経験者とはいえ、いわゆるITとかソフトウエアに全く経験がない場合には難しいです。ただし、出身の業界は問いません。例えば、広告会社でウェブ広告を取扱っていたような人は、非常に向いています。また、人材紹介会社とか、人材派遣会社出身の人も少なからずいます。

何か共通点があるのですか

スピード感とリズムですね。もう一つは、経験としては個人向けの商売ではなくて企業向け、しかもどちらかというと中堅、中小企業を相手にしてきて非常にフットワーク良くやってきたという人たちは、非常に向いています。ですから、いわゆるIT業界にいなくても、そういう経験のある人は大歓迎です。この仕事を1年とか、1年半経験して、本人が希望し適性が認められれば営業職に変わることが出来ます。そうしたキャリアパスを用意しています。

いわゆるフィールドセールスですね。御社は急成長中なので、やれ文化、戦略というと、確かに大げさな話になってしまいますが、結果として数字を残したり、組織のリーダーとして期待できたりするような人に共通する資質とか、性格とか、実務経験以外で何かそういうものはありますか。

そうですね、実務経験以外でいうと、今出た話と少し重複しますが、非常にスピード感を持って物事を考えたり、行動できる人が向いていますね。例えば、他社の従来型の大きなシステムの場合は、提案から納入、検証まで、長い場合には、2年くらい掛かったりします。しかし、わたしどもの場合、お客様が中堅・中小企業の場合には訪問して、ディールとしてクローズするのに平均して1カ月から1カ月半ぐらいです。

そんなに短いのですか。

はい、非常に早いのです。そういうスピード感のある仕事を楽しめる人は、うまく波に乗れますね。一方、ロングレンジのプロジェクトをやってきた人だと、キャッチアップに苦労するケースがあります。どんどん来るものを早く回していくというタイプの人が非常に向いている、そういう人たちが成功しているなという感じはあります。

おっしゃるようにスピードとリズムですね。ですので、たとえ、ちょっと経験がずれていても、わりとフィットするのですね。お話を伺っていると、御社の組織は、わりとフラットなのかなと想像するのですが、実際はいかがなのでしょうか。

そうですね。営業組織は幾つかのチームにわかれていて、各チームの上にヘッドがいますが、その下というのは、もうフラットですね。例えば、営業課長がいて、営業部長がいて、営業本部長がいるというようなレイヤーは設けていません。営業の場合、一つのチームのヘッドというと、大体バイスプレジデントかディレクター・レベルでその下はフラットです。

いきなりそうなのですか。ですと、一人一人の営業が独立して、完結するような体制なのですね。そんな中で、冒頭のお話でマネージャー教育というお話が出ましたけれども、少し先の将来を予想すると、どのようなところを目指していて、どんな教育が必要だと現段階ではお考えでしょうか。

二つあると思います。一つは、当然ピープル・マネジメントですね。現時点でマネージャーになっている人にも必要でしょうし、これからマネージャーになっていく社員にもピープルマネジメントに関する教育は必要だと思います。これはグローバルでの統計ですが、全社的に見ると、マネジメントのポジションは、社内の昇格で半分以上埋まっています。わたしどもとしては、外からも採用しますが、基本的には内部から昇格させたいという考えがありますので、マネージャー一歩手前の社員たちに対しては、組織運営とか、ピープル・マネジメントのことをいろいろと勉強してほしいというのが、これからの一つの領域ですね。

これからマネージャーになる人を含めてですね。

はい。もう一つの領域は経営的な知識ですね。これは、ピープル・マネージャーとして、当然必要になってくると思うのですが、営業の最前線でも必要になってきます。従来型のITシステムの導入というと、多くのケースでは情報システム部に所属している方が提案先になることが多いのですね。したがって、技術的な話で進んでいきます。今はこういう環境になっていて、こんなハードにこんなシステムが乗っていて、これを持ってきたらどういうふうにできるかということが折衝事のメインになってくるわけです。提案するときに、そこをうまくクリアしなければいけない。一方、わたしどもの場合は、その部分はあまり必要ないですね。むしろわれわれが、お客様に提案を理解していただき、末永く使ってもらうために一番重要なことは、わたしどものサービスを使っていただいた結果、どんな付加価値が生じるかなのです。例えば、売上高が伸びるとか、収益率があがるとか、そこの部分をわれわれがきちんと提案して、実証できないと、ビジネスが続きません。ということは、個々の営業であっても、お客様と経営視点での話をしなければなりません。そこがほかの営業とは違うのではないでしょうか。

今のお話は非常に興味深いのですが、常にいろんなお客様の業態や仕事の中身を理解して、経営目線での提案が非常に大事だということですね。

ええ。例えば、ある部品メーカーがあったとしますよね。そうすると、経営陣から見ると、どんな発注があって、どんなものが売れているのかというのは、月単位では把握できるかもしれませんが、日々どうかというと、なかなかそういうデータは上がってこないケースが多いと思います。あるいは、データはあっても毎日データを分析することは非常に難しいということもあります。わたしどものサービスを使うと、日々、どのタイミングでもアップデートされたデータをダッシュボードという形で分析結果として見ることができます。それによっていろいろな手が非常に早く打てる。そのこと自体をお客様に理解してもらえれば、使っていただけます。そうではなく、単にあまりお金は掛かりませんとか、既存のシステムとは無関係に使えますよというところだけ理解していただいても、有用性をご理解いただけない可能性があります。要するに、わたしどもがどういうサービスを提供できるかということをご理解いただくのではなくて、そのサービスを使っていただくことによって、売上とか、収益とか、経営レベルで、どんな良い結果が得られるのかというところをきちんとご理解いただくということが非常に大事です。

なるほど。

わたしどものビジネスはサービス契約ですので、いわゆる新聞の購読契約と同じですね。要するに、ユーザー側からすると、失うもの無しにキャンセルが可能です。従来型のシステムであれば、かなり高額のものをユーザーは購入しますので、一度使い始めたシステムをやめることは現実にはできないわけです。そうすると、自分たちの求めていたものと違うと思ったとしても、何とか最大限使おうとお客様自身が努力するわけですね。一方、わたしどものサービスは、月々使用料がいくらという契約です。そうすると、使ってみて、いいのか悪いのかよくわからない、現場に聞いてみたら、入力が大変だとか言っているといってキャンセルしても何も購入していないのでリスクが発生しないわけです。お客様はそういう意味ではゼロリスクです。これは逆にわたしどもからすると提案をしやすいことにもつながります。また毎月の金額は、購入するよりも非常に少ないですから、そういう意味でも営業しやすいのですが、ゼロリスクである分、簡単にキャンセルされてしまう可能性があります。それだけに、月々いただいている金額以上のバリューをお客様にきちんと実証する必要があるということになります。

使ってもらってなんぼというわけですね。

はい。システムを売り切る従来型ビジネスモデルでも当然、カスタマー・サティスファクションということを提唱していますし、リピートオーダーをもらうためには大事だと思うのですが、わたしどもの場合にはカスタマー・サティスファクションは我々にとって死活問題だという認識が徹底しています。そのため、例えばカスタマーサクセスマネジメントという、お客様がわたしどものサービスに満足しているかどうかを専任でモニターしている部隊があります。毎日毎日お客様の利用状況を見ていて、なにか異変があると、すぐに社内で関係者が集まって分析をし、どのようなサポートが提案できるのかを検討します。

それはセールスの仕事の一部なのですか。

いいえ。カスタマーサクセスマネジメントは、営業とは別の専任の部隊です。お客様にどのようなサポートの提案ができるかを検討する場合には、そのお客様の担当営業をはじめカスタマイゼーションを行ったコンサルティング部隊など、関連部署とすぐに連係を取って、動き始めますね。

そうすると、本当にセールスは大事ですね。会社として、常にお客様に向いて、お客様のビジネスの成功というところを一緒に見ていくのですね。

そうですね。それも先ほど申し上げた、モノを売らない。サービスを買っていただく。月にいくらという形でもらっていくというビジネスモデルの特徴ですね。

お客様の課題をきちんと提案して、解決していかないと、きれいごとではなくて、契約が打ち切られてしまうというところが、御社の成功の裏側というか、逃げられない宿命なのですね。

真の意味でのカスタマー・サティスファクションを実現しないと、われわれのビジネスはどんどん先細りになっていくというのは、組織の上から下まで、全員が身にしみて感じています。