経営者人事対談 > インタビュー記事一覧 > Vol.005 イノベーション(富田 直人 氏)

イノベーション(富田 直人 氏)

樋口:
社員の皆さんから富田社長はどのように見られているのでしょうか。

富田:
人の話を聞かない。聞いている振りをして他のことを考えている。あとは、チャレンジが大好きで、ポジテイブ。とにかく前向きだけど、人の話をあんまり聞かない人間だと見られていると思います(笑)

(笑)

話を戻しますが、イノイズムの浸透のためにもう一つおこなっていることがあります。それが「イノテスト」です。

テストですか?

そうです。テストでは私自身がイノイズム、会社の歴史、業績などについて問題を選んで出題しています。

テストをすると聞くと、「社会人にもなってテストなんて」と思いがちですが、社員の皆さんが前向きにテストに向き合うための仕掛けや工夫といったことはされていますか?

テストに真剣に取り組んでもらうために、結果を成績順に張り出したり、社内通貨のインセンティブをつけるなどの工夫をしています。弊社には通貨「いの」という社内通貨制度があるのですが、テストで平均点以下の点をとった人は、平均点より上の人に通貨を支払うという決まりを作っています。「いの」は換金ができるので、実際にお金が取られてしまうという仕組みです。

それは面白いですね。

例えば、コールセンターで働いている方の中には、自分が担当しているお客様に興味はあっても、全社の重要顧客や経営目標、社歴などには興味がないという方が多いのです。それをテストの問題として出題することで興味を持ってもらい、会社全体や経営を理解してもらうきっかけにしています。ただ、こうした取り組みが嫌だと感じる人もいると思います。例えば、テストや合宿をするより、暇があったら、1件でも多くお客様のアポを取った方がいいと考える人もいるはずです。そのように考えてしまう人は弊社には合わないと思います。ですから、入社後にそのような事態を起こさないために、採用の段階で「こういう取り組みをおこなっている会社だ」ということをはっきりと伝えています。そうすることで、イノベーションの事業内容に興味はあるが、風土は合わないから入社をしないという選択をする方もいらっしゃると思います。しかし、それは仕方がないと割り切っています。

その選択は人によってはっきり分かれるでしょうね。

イノイズム自体はそれほど突拍子もないことは書いていないと思います。みんながチームワークを大切にするとか、楽しく仕事をする、成長していく、道徳心のある人間になるという考え方は、本質的に全ての人間が持っているはずなので、誰もが賛同し得るはずです。ただ、それまでの経験が原因でこのように考え、行動することに対して躊躇をしたり、嫌だと感じたりしてしまう方がいます。こういう感覚は大人になるとなかなか変えられないものですよね。ですので、そういう人は採用しないようにしています。

私もイノイズムの内容を拝見しましたが、富田さんがおっしゃるように、当然そうだろうと思えることばかりだと感じました。素直に考えれば別に受け入れられないようなことは何ひとつないですよね。

そこがなかなか素直に考えられないものなのです。

それがプライドであり、価値観なのでしょうね。

会社と個人の関係性かなと思っています。例えば「会社というのは、売上を上げてお客様に価値を提供できればいいのだろう」と考えている人にとっては、営業以外のことは面倒くさくてたまらないわけです。弊社の場合、ゴミを拾わないと怒られますし、テストまでさせられますので、嫌になってくるわけです。「何で挨拶にまでわざわざ点数をつけなければいけないんだ、バカらしくてやっていられない」という見方もあると思います。でもそれは、イノイズムを浸透させるための手段として楽しんでほしいのです。「こういう文化だから」という意識を持って入社してもらえれば、とっつきにくいことではないと思うのですけどね。ただし昨今の若者は、その辺りに少しギャップがあるのかもしれません。自分からチャレンジすることの大切さは言葉では分かっていても、実際にはなかなか動き出せないという人もいますからね。

私はもともと人事屋で営業経験がないまま会社を立ち上げましたので、今でも営業について勉強の毎日です。そこで営業のプロである富田さんにお伺いしたいのですが、営業職をはじめて芽が出る人と出ない人との違いは、どの辺りにあるのでしょうか?

やはりある程度は素質が必要かなと思います。コミュニケーション能力や、頭の回転が早い、機微がわかるといった要素は努力してもなかなか変わらないものです。ただし1番大切なことは、営業である以上「目標数字を達成したい」というこだわりをどこまで強く持てるかだと思います。

やはりそこですか。

若手の営業担当の中でも、本当に成長している人というのは「絶対に目標を達成する」と心の底から思っていますね。命をかけていると言ってもいいかもしれません。

そうすると、彼らは目標を達成したいというイメージに向かって働いているのでしょうか?

「達成したい」という願望よりも、「達成しないことは営業担当として死を意味する」というぐらいに思いつめて仕事に取り組んでいますね。やはり、そういう人は伸びますよね。これは自分自身を振り返ってみてもそうでした。私は目標を達成するために、1分1秒をまったく無駄にしないようにしようと心がけていました。例えば、毎月行う交通費の精算を9時から6時の営業時間中にやるなんていうのは考えられなかった。その時間に1社でも多く電話ができるじゃないかと考えていましたから。

そのような考え方や行動は生まれついての性格が影響しているのでしょうか?

やはり負けたくないという気持ちが最も影響していると思います。自分自身、負けず嫌いで絶対に周りに勝ちたいと思い続けていました。ですから、その分人より10日ぐらい多く出社しているのと同じぐらいの速さで業務をこなしていました。そのぐらいの量の仕事をこなしていたので、その代わりみんなが怖くて近づけないとよく言っていましたよ。

そうですか。やはり数字の実績を上げられたことが、独立起業する大きな要因となったのですか?

私の場合は逆です。独立するために営業という職種を選びました。もともと父親が事業をしていましたので、地元に帰ってその会社を継ごうと思っていました。ですが事業を継ぐにしても、ゆくゆくは人数が限られた組織の中で1番を取れなければ、独立してもうまくいかないだろうと考えていました。ですので、早くリクルートで1番を取って、独立することに対して自信をつけ、それから独立しようと考えていたのです。しかし優秀な人が多かったので、なかなか1番は取れなかったですね。

さすがリクルートさんは人材の層が厚いのですね。

そうですね。実際には営業では業績を上げられたのですが、マネージャーとして1番を取るのが難しかったのです。こんな強引なマネージャーには誰もついてきませんでしたから。

なるほど。

リクルートにはマネージャーのレースがありまして、目標達成率などを指標に全社MVPが数名選ばれます。マネージャーとして成果が出せないことが悔しくて仕方がなくて、絶対にMVPを取ろうと思いました。その当時はどうしたらメンバーが思い通りに動くのかということばかりを考えていました。独立するために会社に入り、独立するために会社の中で1番を取らなければならないと自分自身にノルマを課していましたので本当に必死でした。

独立された後も、はじめは狙った通りにはうまくいかなかったというご経験も恐らくあったのではないかと思います。そのようなときはどのように割り切ったり、喜びを見つけたりしているのですか?

そうですね、本当にうまくいかないことばかりですね。まったく思うようにいっていないですし、思ってもみない方向にもいきますので、それは私も伺いたいぐらいです(笑)いままでを振り返って考えてみると、企業経営というのは誰も助けてくれないので、自分で考えてやるしかなかったですね。結局、助けてくれる人は社員しかいないので社員に相談して、一つ一つ乗り越えながら解決してきて今日があるといったところでしょうか。

よくわかります。実は私も今年になってやっとわかってきたのですが、経営者が成長するのは向上心でも何でもなく、誰もあてにできないからだなあと思っています。自分で考えるしかない、考えるというか自分で責任を持つしかないのですよね。

誰に何も言えないですしね。相談はできますが、結局最終的に決めるのは自分ですからね。