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株式会社ヒューマンシステム(湯野川恵美 氏)

平成20年度東京都のワークライフバランス認定企業であるヒューマンシステム。システム会社でありながら技術だけではなく、人間的な成長も重視する同社の人材に対するこだわりを伺いました。

樋口:
御社は「多様な勤務形態導入部門」で東京都のワークライフバランス認定企業になられていますが、どのような人事戦略で進めていらっしゃるのか教えていただけますでしょうか。

湯野川:
当社は非常によく社員を見ている会社だと思います。よく見ていないと、業務の品質が保てないですから。最も注力しているのは全体のレベルを底上げすることです。作り上げてきたもののある部分が弱いと、そこかガタガタと崩れてしまうことがありますよね。ですから、まずはチームが同じ価値観にあるというのが大切だと考えています。

チームの構成はどのようになっているのでしょうか。

予算を持っているアカウントマネージャー、その下にプロジェクトのコスト管理までを行うプロジェクトマネージャー、技術的なところだけ管理するプロジェクトリーダーという役職を置いています。このような人材から全社で20名ぐらいを選抜して5つにわけて、それぞれ3,4名のグループ(SBU)を構成しています。このグループ(PSGプロジェクトスペシャリストグループ)ごとに、お客様の満足をテーマにそれぞれの強みを活かして顧客への提案から開発、運用、保守といったプロジェクトを担当し全般をマネージメントします。残りの70名は、技術支援本部という部署に所属して、技術面からお客様に付加価値を与えるというところに携わる人材です。そのなかにも、プロジェクトリーダはおりますが、売上予算は持ちません。ドラッカーの石工の話()に例えると、その70名は2番目の石工を目指す人達だと考えられますが、当社はあえて2番目の石工の集まりを目指しているのです。当社の中にも3番目の石工も当然いますが、われわれは逆に全員が最初から3番目の石工を目指すのではなくて、自分をよく知った上で3番目の石工になることを選んだ人材も、2番目の石工を選んだ人材も幸せな会社というのを目指したいと思っています。そして、1番目の石工もそういう会社では、パフォーマンスの高い仕事ができると考えております。

湯野川社長が考える、社員の幸せのイメージはどのようなものなのでしょうか。

私はそれは多様だと思っています。例えば、ドラッカーの3人の石工の話でいうところの1番目の石工で、家族のことを最も大切にして毎日きっちり働いている人の幸せを大切に思わない会社は良くないと思います。そう考えると、まずは2番目の石工がとても腕が良くてチームワークを保っていられれば、問題になる事象が起こらなくなると思うのです。もちろん技術だけでは解決できないこともありますが、そのベースとなる技術がほかの会社よりレベルの高いところにあれば、その社員がすごく苦境に立たされるようなことはあまりないのではないかと思っています。

多様化のベースには高い技術があるということなのですね。

そうです。ただ多様化というだけではなく、そうした人達と一緒に成長していける会社を目指しているのだと思います。いくら多様性を認めたとしても、各自がばらばらだったら組織の成長はかなわないですよね。ですから、本当の意味での目標を全員が見失わず漠然と働かない、自分の目標が組織全体の目標の1つのピースであるという意識を持っていけるような管理が必要だと考えています。

それは、やはり技術者を主体で考えた結果なのでしょうか。

私自身が技術者出身だったので、ヒューマンシステムは技術者の集まりのままの組織にしたかったのです。ですから、どちらかというとヒエラルキーがない会社を目指していました。例えば、1つのネットワークサイトがいくつかのサイトで構成されているように、会社もばらばらのチームの集まりでも良いのではないかと思っていました。しかし、そのような形態をとっていると、結果として会社がばらばらになってしまったのです。当初は、何が原因でそのようなことが起こるのかがさっぱり分かりませんでした。ばらばらにしていた分、確かに活性化はしていて利益率も今より良かったです。しかし、一方で品質が悪くなるのです。品質というのは、どうやるのかを細かく決めて、全員が同じやり方をするところから生まれます。しかし、やり方が統一されていないので、品質自体が人に依存してしまったのです。それではいけないというように思い、今のようなマトリクス組織に変えました。また、マネージャーとも週に1回午前中いっぱいかけて会議をするようになりました。

会議ではどのようなことをお話されるのでしょうか。

議題はさまざまですが、何が問題なのか、自分ならどうするかといったことを話し合っています。会議自体を意識合わせの場にしており、細かいことまで話し合うので、とても時間がかかります。当社の調査役や外部取締役も会議のお手伝いをして下さることがあるのですが、「あんなに細かく一から十まで母親のように聞いては駄目だ」とよく言われます。ですからあまり聞かないようにはしているのですが(笑)。実際には、現場で起こっている問題や課題はミーティングでなくても、日常的に社員と話をしていれば分かります。そのため、会議ではそのときにおかしいなと思うことを質問しているだけなのですけどね。もちろん私だけが話すのではなく、他のマネージャーも意見します。私が少し黙っていると先にほかのマネージャーが発言することも多いです。

それでは参加者全員で話し合うような会議なのでしょうか。

そうですね。ただし、話している内容は私が一番多いみたいなのですが(笑)。この会議が会議として最善のものかというと、そうではないのかもしれません。ただし、当社の場合クライアント企業に常駐するケースもあり、業務内容においても定型業務ではなく、1つ1つが全く違うプロジェクトです。定型業務であればマニュアル化した方がよいのですが、定型業務でないものをマニュアル化すると、逆にサービス品質が悪くなってしまう可能性があります。そうした面からも時間をかけて情報を共有することは有益だと考えています。

三人の石工の昔話がある。彼らは何をしているのかと聞かれたとき、第一の男は、「これで暮らしを立てているのさ」と答えた。第二の男は、つちで打つ手を休めず、「国中でいちばん上手な石工の仕事をしているのさ」と答えた。第三の男は、その目を輝かせ夢見心地で空を見あげながら「大寺院をつくっているのさ」と答えた。(『マネジメント 下』p87 P・F. ドラッカー)