経営者人事対談 > インタビュー記事一覧 > Vol.009 株式会社ヒューマンシステム(湯野川恵美 氏)

株式会社ヒューマンシステム(湯野川恵美 氏)

樋口:
このような会社にしたいという会社のビジョンはメンバーの方々と共有されているのでしょうか。

湯野川:
当社は「技術・思いやり・豊かな人間性」という社是があり、お客さまの満足と社員の幸せを両立することを企業理念としています。そのレベルでは共有できています。また、丁度今の時期に1ヶ月ほどかけて1年の目標をつくっていくのですが、その作業も今は彼らが主体で行っています。実は昔は目標が共有できていませんでした。そのため、最近では目標設定の段階からマネージャーに行ってもらうようにしたのです。今年は中期計画をリニューアルする年なのでそれも同様に行っているのですが、今になってマネージャーの一人が3年前の中期計画を読んで、「実はここが分かっていなかった」と言ったことがありました。これはつまり、少なくとも彼は3年前には中期計画について理解できていなかったということですよね。実際にそのような人が多かったと思います。当時の中期計画の文書は基本的な部分は全部自分で作っていたのできっちりしていましたし、会議の準備自体も短く済んでいたのですが、中身は現在の方が浸透していると思います。

それは、その毎週のミーティングの成果なのでしょうね。

そうですね。例えばトラブルが起こった時に、マネージャーに人を集めるように指示して5分後に行くと、私が言おうと考えてたことは既にマネージャーが言ってくれているというような状況になりました。ですから私自身が何かを言うことはあまり必要がなくなってきています。今では私自身はあらすじを大体決めることだけで、実行は任せられるようになりました。

人材を採用するときのこだわりを教えていただけますか。例えば、技術の優劣ということは別にして、優秀でも採用しない人材や、多少経験がなくても採用する人材というのはどのような人材なのでしょうか。

まず、まじめであることと、論理的に物事を考えられるという点を採用基準にしています。仕事に対してまじめに取り組める人でも、論理的でないと物事を教えたりコミュニケーションをとるのが大変だという過去の経験から論理的であることを基準として挙げています。3番目に、何か1つでも秀でたところを自分で作ろうとする努力をする人、あるいは秀でたところを持っている人。4番目が、人の役に立つことを幸せだと思える人、人の役に立ちたいと思っている人です。これらの4点を採用基準としているのですが、最近面接官が実際に見ているのは、素直さです。素直な人は入社時に技術が全然なくても、入社後にものすごく伸びます。当社の場合は人材を育成するために、マネージャーも含めて会社全体がとても手を掛けます。これまで17年間、7割以上の社員が新卒で入っていますから、先輩社員が手をかけて後輩を育てる文化が完全に定着しており、後輩が入ってきた場合はそれぞれ自分が教わってきたように後輩を教えるようになっています。しかし、素直ではない人は教えても言ったとおりにやってくれないので先輩社員も困ってしまいます。それまで自分達は言われたとおりにやってきて、実際に成長してきたという背景があるので、言ったとおりにやらない人を教えるというのは大変難しいことなのです。そのような問題が起こったときに、教える側の問題かと思い、コーチングを勉強させてみたことがあります。一時期は随分凝ってコーチングに取り組んでいましたが、コーチングが通用しないケースもあり、また社員から「採用にも問題があるのではないか」という意見が多く出たので、面接の際に素直さを見るようにしたのです。

私も採用の時に、素直さは重視するポイントです。実際には自尊心と向上心のバランスを面接で見ています。自尊心が高い人材は、人の足を引っ張ったり、転職を繰り返したりする人が多く、自尊心が自己の成長を妨げている場合をよく見受けます。この自尊心と向上心の2つのバランスが取れていると泣いたり怒ったりしながらも頑張って働くものですが、自尊心ばかりが強いと難しいものです。

確かにそうですね。おそらくそれが、われわれが考えている素直さなのだと思います。

多分そうでしょうね。実際の選考ではどのようなやり取りでその素直さというのを見ていくのですか。

面接官に「あなたの素直な体験を教えてください。」と聞くように言っています。ただし、面接官に対して、自分がいかに素直なのかを流暢に話せる人材を求めているわけではありません。われわれが求める素直な人材というのは、そこで「え? 素直ですか?」「素直な体験ってどのようなことなのでしょうか?」と自然に聞いてしまうような人材なのではないかという話を面接官としています。

賛成ですね。私もそう思います。

しかし一方で、素晴らしい体験談を話せる人も中にはいます。しかし、そのような人材は結局当社の内定を辞退してしまいます。彼らは何となくこの会社は自分には合っていないと感じるようなのです。その直感は正しいと思います。

そこは雰囲気というか価値観のマッチングなのでしょうね。私も実は同じようなことをクライアントに対してアドバイスしています。例えば向上心を見抜くときは、自己PRをさせてはだめなのです。自分の経験を自慢するような人材は向上心が低く、本当に向上心が高い人材は現状の自分が恥ずかしくて仕方がないと思っているものなのです。そのため、自己PRや自己評価は向上心を見抜くのには適していません。そもそも、会社に入ると評価というのはみな上司がするものなので、自己評価は必要ないのです。素直さも同様に「何ですか、それ」と言うぐらいの人の方が素直である可能性が強いですよね。

自己PRは嫌というほど練習してくるようなので、面接で見ていても慣れている学生の方が多いですね。そこで今年は選考でSWOT分析をしてもらいました。しかし、それが今年の新卒採用の敗因となってしまいました。次の選考までの間に辞退者が多く出てしまったのです。