経営者人事対談 > インタビュー記事一覧 > Vol.010 株式会社コーチ・エイ(鈴木 義幸 氏)

株式会社コーチ・エイ(鈴木 義幸 氏)

樋口:
先ほどのお話に戻るのですが、「エグゼクティブ・コーチング」ができる人材とは、具体的にはどのような能力がある人材なのでしょうか。

鈴木:
それはロジカルに話すことができ、なおかつ愛嬌のある人材です。これは私の印象なのですが、経営者は愛嬌のある人が好きなように感じます。この愛嬌がある人というのは、おそらく経営者の本音を引き出せる人材、つまりこの人になら話してみようかなと思わせるような人材です。一方で、この仕事をする上では、会社全体を俯瞰してみて、論理的に考える力も兼ね備えていなくてはいけません。このような人材を採用するのは、なかなか難しいのが現状です。

今、鈴木社長がおっしゃる人材というのは、各企業で奪い合いになっている人材と同じように感じます。具体的に面接ではどのような点を見られているのでしょうか。

面接の際にこのような人材は採用しないと決めているポイントが2点あります。1つは、「この会社に入って自分はこういうことを成し遂げたいのです」「自分はこのスキルを磨きたいのです」というように入社を希望する理由を自分中心に話す人です。自分がこの会社に入社することによって、何が貢献できるか、この会社はどう良くなるのかというように会社を中心に熱を込めて言えない人材は、その他の部分がどんなに良くても絶対に採用しません。もう1つは、話の長い人です。話が長いということは、要するに相手の気持ちを読めていないということですから。研修の講師をする場合にはもちろん経営者と話をする際にも、要点を短く伝えるという能力は必須です。それに加え、面接では自己肯定感と自己客観視力を見ており、この両方が高い人材を求めています。自己肯定感というのは、「自分に自信を持っている人」と言い換えることもできます。例えば何かやろうとする時に、「他の人がやってることなら自分だってできる」と思えるような感覚を持っている人材です。しかし、この自己肯定感ばかり強くて自己客観視力が弱いと「俺様」になってしまいます。ですから、自分を客観的に見れて、かつ自分に自信を持っている人材を採りたいと思っています。それに愛嬌が加わると最高の人材なのですが、そのような人材はなかなか出会えませんね。

かなり難易度の高い仕事のようですが、採用の際には前職にはこだわらずに、今のような中身で採用されているのですか?

そうです。むしろ、前職はなるべく多様な職種から採用した方が良いと思っています。例えば、クライアントがメーカーの場合、メーカー出身のコーチの方が話が合わせやすく、先方からも受け入れてもらいやすいのです。
そのため、多様なクライアントに対応できるように社員もなるべく多様な業界出身者がいた方が良いと思っています。実際にあまり職種に偏りはなく、いろいろな会社から来ています。例えば証券会社や銀行、金融会社出身の者もいます。もちろん、採用で最も重視するのは前職の業界ではなく人材の中身ですが、出身業界が多様になるように意識はしています。

これまでお話しいただいた基準を最終的に判断されるのは鈴木社長なのですよね?

最終面接は、私と会長の2名でおこなっています。面接で話すのはほとんどが会長です。当社の最終面接は少し変わっているのですが、ほとんどこちらからは質問せず、逆に候補者に自由に質問してもらうようにしています。ただし、候補者には会社のビジョンといった平凡な質問はしないように言っています。もし質問してきた場合は質問を変えるように促したり、逆に「なぜだと思う?」とこちらから質問したりします。嫌な面接官ですよね(笑)。これにはつまらない質問をしてほしくないという意図ももちろんありますが、一方で嫌な面接官に対して、どのようなリアクションを起こすかということも見ているのです。冒頭に申し上げたエグゼクティブ・コーチングができる人というのは、経営者と向かい合って話をした時に、多少きつい対応をされても愛嬌で返せるような人材なのです。そのため、そのような面接の状況でどのように対応するのかというのは重要な指標になります。

これまで第一線でお客様に対応する人材について伺ってきましたが、一方で御社内でマネジメントを行うスタッフも必要だと思います。御社内でのマネジメントスタッフの採用や育成はどのように行っているのでしょうか。

マネジメントをする人材を採用するということはまだ行ったことがないですね。基本的にはコーチとして採用した人材の中で、結果としてマネジメントの力があると判断した人材をマネージャーとして登用しています。採用後に何か特別な育成をしたかというと、特にはしていません。ただし、コーチの仕事自体がマネジメントやリーダーシップ、コーチングをお伝えすることですので、これらについて勉強している人がほとんどです。ですから、自分が勉強し、コーチとして人に伝えていることを社内でも実践しようと自然に思っている人が多いので、マネジメントに必要な要素の育成があまり必要なかったと言えます。