経営者人事対談 > インタビュー記事一覧 > Vol.011 早稲田大学ラグビー蹴球部(中竹竜二 氏)

早稲田大学ラグビー蹴球部(中竹竜二 氏)

樋口:
最後のテーマになりますが、評価についてお伺いしたいと思います。評価というとちょっとそぐわないかもしれませんが、評価イコール育成、要するに評価というのはフィードバックを与えたり、気付きを与えて伸ばしていくことです。単純な話でいうと強みを活かすとか、短所を直すという方法論がありますが、中竹さんの評価育成方法はどのようなやり方なのでしょうか。

中竹:
我々ラクビー部は1軍から6軍まであって、それが毎週入れ替わります。学生からすると、そのセレクションは人生のすべてといっても過言ではありません。それ故に、往々にして「どういう基準ですか、何をすれば上がれますか」という点に執着するのですが、「うまいから出すとか、強いから上げるという方針は一切ない。独断と偏見で決めるので覚悟してください」と選手たちにはっきり伝えています。「見ているのは、いかに自分のスタイルを持って、自分らしくプレーするか」だと。でもそれって、何か胡散臭く聞こえますよね。

難しいですね。

はい。胡散臭いと思うのだったら、そう思ってもらっていい。そもそも独断と偏見なのだから理由なんてない。私が信頼できる選手を使うし、信頼していても1軍に上げない選手もいる。要するに、すべてが独断と偏見だから覚悟してくださいと言うわけです。なぜそうなのかというと、われわれは勝つためにやっているからです。選手一人一人の能力を伸ばして、大学選手権に優勝することが目的なので、相手がどんなチームなのかということはすごく大事ですし、メンタル面も含め自分のチームが現在どんな状況にあるのかもかなり重要になってきます。私は、それらをすべて年間プランの中で考えているので、昇降格の理由を一回一回付けられないのです。

監督のその想いをコーチも汲んでくれるのですか。

やはりコーチ陣とはよく揉めます。自分の担当の選手がすごくがんばっているのに、私が「上げないよ」というと、「何でですか。彼はこんなにがんばっている、今上げないと多分腐ってしまいます」と言ってきたりします。そういう時は、“がんばったから”ということは一切関係なくて、どういうアドバイスをして、どうやってがんばってもらうか。これもコーチの大事な仕事で、昇降格自体を評価ではなく育成機会として選手を育てなさい、とアドバイスしています。
私は年間を通して面談を数多くおこなっていますが、選手に自分のスタイルを発見させ、スタイルを確立させることが面談の目的だと思っています。ですから選手一人一人には、スタイルをすべて答えさせています。その一方で、選手選考が強さだったり、うまさだったりしたら、スタイルを追求する意味がなくなりますよね。そういう意味では、面談も育成も声を掛けるのも、いわゆる形にのっとった指導ではなくて、選手一人一人のスタイルに合っているかどうか、ということに集中しています。

独断と偏見で決める、という言葉を表面的に捉えると、随分乱暴な話に聞こえてしまうかもしれませんが、その本質は極めて緻密な組織論ですね。つまり、まず優勝に向かってどういう組織を作るかがあり、次にそれを構成する選手を選ぶ、というプロセスがあるわけですよね。極端に言うと毎年選考基準が変わってしまう。これは、特にレギュラーに向かう選手からしてみたら、わかりにくい話だと思います。

そうですね。ですからこの話しを企業の方にすると、「企業マネジメントの世界では無理ですね」と仰います。しかし私は絶対無理ではないと思っています。

幹部育成はそうだと思います。一般職の人たちには、みんなの納得感とあるベクトルが必要なので制度というものをつくって、こういうコンピテンシーを身に付けましょうとか、一応決めますが、それはある程度までの話であって、そこから上は結局のところ勝負の世界ですから。おまえは優秀だけど、運が悪かったなどということがあります。多分サラリーマンのトップレースの最後は運不運ですよね。

本当にそう思います。ですから我々は、それもひっくるめて見抜かないといけません。コーチ陣には若手もいれば、私と同じ目線で見てくれるコーチまで十数人いますから、いいプレーをしても、「いや、何か土壇場でけがをしたり、ミスするような気がする。だから上げない」と言ったりすると、「何で可能性があるのにチャンスをあげないのですか」「いや、勝負の世界だから」と。こういうやりとりはすごく多いです。まさに幹部育成と同じですね。

どの企業も幹部になると、実は評価制度とか基準とか、そんなものはなくて、えらくいい加減ですからね(笑)。実際につくれませんし、この変化の時代にそんなものを作っていたら、それだけで競争に負けてしまいますよ。
でもお話を伺っていると、当たり前ですが企業のマネジメントと非常に近いところがあり、違いは違いで当然ありますが、根幹に流れるエキスみたいなものはすごく近いなと思います。ただ、やはり毎年1年1年の勝負というところは、ダイナミックですよね(笑)、非常に。

まあそうですね。ですが私にはそのほうがいいのかなと思います。あきっぽい性格なので(笑)。そういう意味では楽しみながらやっていますね。

中竹さんにとって、早稲田ラクビー部の監督というのは人生のキャリアの1つとして位置付けると、すごくいい機会なのではないですか。

そうですね。そういう意味では、こんなに素晴らしい仕事というか、こんなポジションは多分見つからないだろうなと思って、日々惜しんでやってます。毎日が本当に楽しいし、素晴らしい場だなと思います。ですから、そういう意味では学生に感謝ですね。

 

早稲田大学ラクビー蹴球部 
http://www.wasedarugby.com/

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挫折と挑戦
監督に期待するな 早稲田ラグビー「フォロワーシップ」の勝利

Data:中竹竜二

早稲田大学ラグビー蹴球部監督

 

1973年福岡県生まれ。福岡県立東筑高校卒業後、早稲田大学に入学。4年生まで公式戦経験ゼロにもかかわらずラグビー部の主将を務め、全国大学選手権準優勝。大学卒業後、英国に留学。レスター大学大学院社会学修士課程修了。2001年、三菱総合研究所に入社。2006年より清宮克幸監督の後任として監督に就任。07年度、08年度と大学選手権連覇を達成。今シーズン三連覇を目指す。