経営者人事対談 > インタビュー記事一覧 > Vol.014 ブックオフコーポレーション株式会社(松下展千 氏)

ブックオフコーポレーション株式会社(松下展千 氏)

新古書店の草分け的存在で、業界最大手であるブックオフコーポレーション株式会社。店舗数拡大、海外進出、WEB店舗の開設など、活躍の場を広げ続ける同社の専務取締役 松下 展千 氏に、現場主義への飽くなきこだわりについて伺いました。

樋口:
御社は現場をすごく大事にされていらっしゃる会社だと伺っていますが、現場を支えていらっしゃるエース人財というのはどのような方々なのでしょうか。

松下
ずばり店長です。人財の評価基準は企業により様々だと思いますが、当社ではチームワークが大切な要素の一つであると考えています。仕事が早く正確にできるということも大事なのですが、当社で評価されるのは、一人だけで活躍するタイプではなく、周りを巻き込んで一緒にコツコツと仕事が進められる人財、さらにその上で周りの能力を引き上げられる人財です。
なぜ当社がこのような人財を重要視するかというと、2つの要因があります。一つはチーム全体の能力が上がった方が事業としても生産性が高まり、利益を生み出すようになるということ。もう一つは、そのような要素を持った人財が集まれば、育成された人財がさらに別の人財を育成できるようになり、良い循環が生まれるということです。このようなチームワークを重視する文化は、創業以来メンバーと共に会社のコアの部分として大事にしてきました。
組織の形はピラミッド型ですが、考え方としてはリーダーがみんなの意見を集約して「会社のために何が必要か」という一つの方向性に向かっているのが理想だと思っています。

御社のエース人財というのは、野球で言う4番バッターのようなスタンディングプレーヤーというよりは、チームを率いてメンバーの力を引き出せるような人財なのですね。
とてもよい文化ですね。ところで、御社におけるエース人財像、つまりチームワークを大切にする人財が評価される、ということは従業員の皆さんには浸透しているものなのでしょうか。

少なくとも7割は共有されていると思います。しかし、社員に聞くと中には99%と答えるものもいると思います。現場を預かっている店長やマネージャーは、自分のお店のチームワークに自信を持っている者も多いので、恐らく自分のお店はみんながチームワークを強く意識していると言うでしょうね。

そこまで行くと企業文化やDNAのようなお話ですよね。理念の浸透具合は企業によって異なり、中には「壁に掛けてある」飾り程度になってしまっている企業もあるようですが、御社はしっかりと理念が社員にしみわたっているのですね。

そうですね。例えば、新規店舗の出店を検討する際に、一般的には「来年はお店を20店舗出すからこのぐらいの社員が必要だ」という計画に基づいて採用をしますよね。それはそれでもちろん大切ですが、当社では創業期から「この人にお店をやらせたいからお店を出すんだ」、「こういう人財がいなければ新店は出せないんだ」という考え方も大切にしています。会社自体が大きくなり、今は「新店を任せてもらえる人財を育成しよう」へ変化してきていますが、いずれにしても、会社として上司としての期待を示すことは社員のやる気を引き出すことにつながると思っていますので、そういった人へのこだわりは意識するようにしています。

創業以来大事にされている企業文化を残す手段ですとか、伝え続ける方法というのは何か工夫をされていらっしゃるのですか。

実はそれはちょうど当社にとってホットな話なのです。今年の6月に代表(代表取締役社長 佐藤 弘志 氏)の発案で「読本3部作」というものを作りました。(1)「サービス基準」、(2)「生産性読本」、(3)「人財育成読本」という三つなのですが、簡単に内容を申しますと、「ブックオフグループにおいて、サービスとは、生産性とは、人財育成とはこのようにあってほしい」ということを示したものです。
この3つは当社の経営理念である「社会への貢献」と「従業員の物心両面の幸福」の2つにもつながっています。まず、会社の象徴であるお店の成長は、そこで働いてくれている人の成長がないと実現しません。その上で利益が確保できるようにするには更に生産性の向上が必要です。これらに加え、社会に対しブックオフとして何を提供していくのかという観点を持ち、会社の内側と外側の両方へ貢献していこうというのが、「読本3部作」の考え方です。具体的内容は創業メンバーあるいは、それに準ずる人たちが今まで体験してきたことまとめたものです。これをフランチャイズ加盟店まで含めて、こういう形でやっていきたいという方針として共有しています。組織が大きくなるとどうしても価値観が広がってしまい、理念が薄まってしまうものですが、そこに1本筋を通すためにこの本を作成しました。ちょうど今この「読本3部作」の考え方を店舗に浸透させるべく、取り組んでいるところです。じかにお客様と接するのは店舗の従業員です。この「読本3部作」にまとめた考え方が彼らからボトムアップで浸透していくことによって利益に結びつき、その結果彼ら自身の生活も安定し、会社としても社会に貢献できるのではないかと思っています。

よく分かります。拝見しましたが、現場の意識を変えるツールとしてかなり現場の読み手を意識した作りになっていると感じました。現場に理念を浸透させることに対して強いこだわりを持っておいでなのですね。ところで、採用についても少し伺いたいと思います。現時点では、新卒採用と中途採用の両方をされているのだと思いますが、それぞれどれくらいの割合なのでしょうか。

中途採用は全くしないわけではありませんが、ほとんどが新卒採用とパート・アルバイトからの登用です。
パート・アルバイトの登用は他社ではあまりないことかもしれませんが、当社にとっては会長の橋本(取締役会長 橋本 真由美 氏)自身がパート出身ですので当たり前のことになっています。店長としても、売上目標の達成と同じくらいに自分の店舗のパート・アルバイトが自分の働く姿を見て「店長をやりたい」と言ってくれた瞬間というのは嬉しいようですね。