経営者人事対談 > インタビュー記事一覧 > Vol.014 ブックオフコーポレーション株式会社(松下展千 氏)

ブックオフコーポレーション株式会社(松下展千 氏)

樋口:
パート・アルバイトからの登用ですと、仕事を十分に理解した方が多いというメリットもありますね。ところで、最近は景気が後退して離職の話はあまり騒がれなくなりましたが、若い人たちが入社後3年も経たずに辞めてしまうということが少し前に話題になりましたよね。御社はその点いかがですか?

松下
やはり、辞める人は辞めます。ただし、以前よりは辞めなくなりました。これにはいろいろな理由がありますが、創業当初に比べて社員にとって働きやすい環境になったことが要因の一つだと考えています。これは上場したこともあり、会社として成熟してきた結果です。もう一つ考えられる要因として、入社前に当社がどんなことをやっているのかを知る機会を設けるようになったことがあります。インターンシップを実施したり役員が前に出て話したりするなど、会社をオープンに見せていくことによって、入社後の「こんなはずじゃなかった」というのは少なくなってきました。

御社の社風をきちんと理解して、価値観をマッチさせて入社してもらうことを重視するようになってきたということですね。
私は常々価値観のマッチングは応募者がおこなうことであり、企業側としては実態をさらすしかなく、企業がおこなうのは能力や資質のマッチングだと考えているのですが、御社では応募者の能力や資質・適性を見抜く際にはどのような点を重視されているのでしょうか?

実は、私をはじめとした管理部門の人間は採用に関わっていないのです。なぜかというと、店長候補として採用しているので、適性を判断するには実際に店長として働いた経験のある者、現場の近くで働いている者でなければできないと思っているからです。ですから採用に関るのは、店長、あるいは5・6店舗を見るエリアマネージャー、エリアマネージャーを束ねる統括エリアマネージャーです。基準は明確に言葉では示していないのですが、実際の決め手となるのは彼らが一緒に働きたいと思う人間です。採用される人財を見ていると、いわゆる「できるタイプの人間」ではなく、コミュニケーション能力があるかどうか、それに加え、素直さや根性があるかどうかを見て判断しているようです。ただし、基本的には間口はあまり狭めず、ブックオフに来たいと思ってくれる人を採ろうと考えていますので、先ほど申し上げた通り、当社の姿を全部見せようという採用方法に行き着きます。
いわゆる就職セミナーには全て代表の佐藤が出て、「こんなにつらい」「当社にはこういう夢があって今こういうことを頑張っている」という話や、コンプライアンスの問題なども含めて、代表として会社の話を包み隠さずします。また、1~2年目の店長が体験談のようなものを発表して、「辞めたくなったこともある」というような話もします。そんな話も聞いて、引いてしまう人もいるでしょうし、やりたいと思う人もいるでしょう。そのやりたいと思う人の中から採用していくのです。

人事部が「こういう採用基準でやろう」と締めるような採用ではないのですね。そのような採用方法で、採用者の能力面にあまり弊害はないものなのでしょうか。

基本的にはありません。なぜかというと、我々の会社は来年創業20周年をむかえるのですが、少なくとも今までのほうが人は集まりにくかったはずですよね。しかしながら今、当社には素晴らしい人財がたくさんいます。ですので、将来的に考えても、母数が増えている今の方が優秀な店長・マネージャーや幹部候補も多くなるだろうと考えています。

そのように採用した人財を育て上げる面で、御社なりの考えを教えていただけますでしょうか。

人には色々なタイプがあると思いますが、所謂「4番バッター」ではなくて、例えば樋口さんが著書でおっしゃっていた「こだま号タイプ」の社員だからダメだということはありません。「こだま号タイプ」の集団でも傷をなめ合うのではなく、前向きに成長しようとしていれば、それでよいですし、当社ではむしろそれがよいのです。実際、私どもの仕事は、客数が多く、商品の点数も多いので、コツコツと一見地味に見える仕事を積み重ねていかないといけないことも多くあります。しかしそのような仕事も極めることで人は育ち、自然と達人になっていくものだと思います。それは「のぞみ号タイプ」のような仕事や成長の速さはないかもしれませんが、一歩ずつ着実に成長のステージを登っていくことで、視野の広さや思慮の深さ、人間的な味のようなものが出てきます。当社の統括エリアマネージャーには30代前半から半ばの者がおりますが、40代になった私よりも話していて彼らのほうが人間として深いと感じることが多くあります。

こだま号タイプ:
若手社員のセルフモチベーションの度合いを新幹線に例え、セルフモチベーター「のぞみ号タイプ」、モチベーションが上がれば頑張る「ひかり号タイプ」、無理をしない「こだま号タイプ」としている。なお、このタイプの分類に仕事の能力は関係ない。(インタビュアー樋口の著書:「『いまどきの』新入社員を一人前にする技術」より。)