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株式会ネットプロテクションズ(柴田紳 氏)

コンビニ支払い・郵便振替・銀行振込の「後払い決済」を未回収リスクなしで一括導入できる決済サービス「NP後払い」を提供するネットプロテクションズ。同社代表取締役社長(CEO) 柴田 紳 氏に会社を軌道に乗せるまでのご自身のご経験と人材育成に対する想いを伺いました。

樋口:
御社は日本で唯一の後払いサービスの仕組みをご提供されているということですが、なぜコンペティターがいないのでしょうか。

柴田
逆の立場ではないので正確にはわかりませんが、やはりビジネスモデル構築の難易度は高いと思います。後払いで、しかも会員登録なしで、お客様が支払いをしないかもしれないというリスクを全て飲みこまなくてはなりません。その時点からして常識外れとも言えます。
実際に当初は大赤字でしたし、周囲にも「このサービスはいける」と言ってくれる人は皆無でした。新卒で就職した総合商社からベンチャーキャピタルに転職し、その後すぐに当社に出向することになったのですが、もともとITや決済に関する知識があったわけではなく、この事業に関しては全くの素人でした。ですから自分自身、この事業が成功する自信もなかったのですが、ただ「前に進まなければ潰れてしまう」という想いで乗り切ってきたのです。当社が黒字化するまでには、10億円以上の赤字を出しましたが、それを乗り越えて現在のフェーズまで来ましたので、おそらく他の企業が後追いしても今からでは追いつけないと思います。どうなるかわからない事業に10億円投入し、エース社員をアサインする大企業はないでしょうから。

10億円とはすごいですね。黒字化するまでの間に相当なご苦労があったのではないでしょうか。

2001年に当社に来てから8年になりますが、その間いくつかのフェーズを経てきました。出向当初は年上の社員も多く、価値観もベクトルも能力も全く異なる人たちと事業を作っていかなくてはなりませんでした。事業もない、人財もいない、まさに頼れるのは自分だけ、という状況でした。これが第一フェーズです。社長に就任したのは2004年ですが、その頃はほぼ全ての現場に顔を出し、口を出し、手をだすようなマネジメントでした。マネジメントとしては大失敗だと思いますが、一方で組織や人の成長等を言っていられるような状態ではなく、どうやって会社として生き残っていくか、その点に集中せざるを得ないような時期でした。
その後、どうにか事業が順調に回りはじめ、第二フェーズに入った段階で「組織を作ろう」と思ったのですが、会社の風土は先に述べたとおりでしたので、良い人財を採用したくても採れませんでした。また、私自身が未熟でしたし、社員と一緒に何かをしようと思ってやってみても、100%ワンマンな状態は変わりませんでした。自分に自信を持っていると、育成が苦手で、人に任せられないというのはよく聞く話ですが、まさにその通りだったのです。右腕候補を採用しては自分で首を突っ込み、「あなたはだめだ」と言うことを2006年ぐらいまで繰り返していました。
しかし、その辺りから徐々に社員数が増えたこともあり、いつまでも自転車操業はしていられないということで覚悟を決めて本腰を入れて組織作りに取り組みました。採用した幹部に完全に仕事を任せることにしたのです。ですから私は2006年から2007年あたりはほとんど実務はしていません。会社としてはある程度収益が出始めて、安定性を増してきたのでリスクをとってチャレンジできるフェーズに来ていました。そこで私はマネジメントに徹することにしたのです。これが第三フェーズです。ここで初めて経営者として必要な「任せる」マネジメントを学びました。そうすることでだんだんと組織全体は落ち着いてきましたが、一方でやはり力が落ちていき、成長速度もだんだん落ちていきました。
そして今、やっとその次のフェーズ(第四フェーズ)に入り、ようやく理想の組織に近い状態まで来ています。

具体的にはどのような状況なのでしょうか。

特に一番違うのは幹部層です。今の幹部層はベクトルも合っていますし、能力的にも抜群に高い人財がそろってきたので、安心して任せられるようになりました。幹部と言っても私が一方的に何かを教えることはほとんどなく、みんなで議論して盛り上げていくことができています。やはりその方法が一番納得感もありますし、それ自体の教育効果も高いですから、良い循環が生み出せます。また、新卒層も幹部のレベルに準じた、というより10年後にはそのレベルを抜くかも知れないと思える優秀層が入社してくれるようになりました。更に、事業においても、今年の9月にテレビ東京系番組『ワールドビジネスサテライト』で当社のサービスを紹介いただくなどのきっかけもあり、大手企業からも引き合いが来るようになり、これまで7~8年かけてやってきたサービスが本格的に花開きそうな段階です。ようやく企業として成長する土台が整いつつありますので、ここから2~3年後には次の勝負をしていけるようになるでしょう。

修羅場をくぐりぬけていらっしゃった結果ですね。

そうですね。大変な状況で、ノイローゼにもなりかけましたが、考え方を変えれば私は相当恵まれていたのだと思います。親会社は当社からの投資回収を半ばあきらめていたようで、周りから口出しされることはほとんどなく、ほぼ全ての権限を握ることができました。20代の若造が10億近いお金を預かって、全ての権限を持って、会議も経ず、稟議も通さず全部決められる状況は他ではありえないでしょう。

修羅場をくぐって奇跡的に成長してきたわけですね。私はよく人のキャリアを三段階に分けてお話しているのですが、一段目は一般層で「強みを生かす」ことが求められるステージ、二段目はマネジメントに足を踏み入れた層で「弱みと向き合う」ことが求められるステージ、三段目は経営幹部層で「責任を楽しむ」ことが求められるステージと表しています。一般的には一段目で止まってしまう人も多いのですが、柴田さんのお話を伺う限り、一段目の時期はほとんどなく、すぐに二段目に入っていますね。

確かに自分の強みはわからないまま修羅場に突入してしまいましたから、珍しいタイプだと思います。新卒入社四年目に転職したのですが、実は転職前は転職が恐ろしかったです。と言いますのも、もともと意欲は高かったですし、現在このようなことができていると思うと能力もあったのかもしれませんが、とにかく前職ではチャンスが与えられず、力を発揮したと実感したことがなかったのです。自ら手を挙げても「10年待て」と言われるような環境で、結局3年間で「やり遂げた」と感じるほどの仕事をしたことがありませんでした。ところが転職したらいきなり修羅場でした。売上がなかったので、リストラをして、事業を作って・・・という状況でしたから、強みを見つけている時間はありませんでした。むしろ、「全て強みとみなすしかない」という状況でした(笑)。