経営者人事対談 > インタビュー記事一覧 > Vol.027 株式会ネットプロテクションズ(柴田紳 氏)

株式会ネットプロテクションズ(柴田紳 氏)

樋口:
第一段階がない代わりに、第二段階は非常に濃厚だったのですね。

柴田
そうですね。私は前職での経験も、修羅場経験も自分のキャリア全般を通してよかったと思っています。新卒で入った商社での経験も私にとっては失敗でもなんでもなく、本当に良い経験でした。想像ですが、私みたいなタイプが最初にコンサルティング会社に入って機会を与えられていたら、ある程度の成果は出せたでしょう。しかし、これほどの修羅場を経験することはなく、結局実力以上に自信過剰なタイプになっていた気がします。今は「自分の人生を本気で生きている実感」がありますし、修羅場を乗り越えてきたおかげで、30歳を超えてから心がすごく平穏です。

30代で落ち着くというのは早いですね。今ようやく会社も安定した状態なのだと思いますが、お話を伺っていると、また次も高い目標を掲げて新たな修羅場に行ってしまうのではないかと想像しました。もしかすると、これからもう10回くらい波があるかもしれませんね。

波は現在もないわけではないですが、過去に幾度も経験してきた企業の存亡がかかったような大波ではないですし、予測もある程度つきますから全く心が乱れていません。私の掲げる目標は確かに高いと思います。経営者の目標設定が高くなければ、もっと低リスクで「みんなで仲良く」というような風土の安定した会社を作れたはずですから。当社は事業目標として過去に日本、あるいは世界に存在しなかった会社にしたいというビジョンを掲げています。「後払い」という仕組みは他の企業がおこなっていないので大きな強みになりますし、今後の発展可能性は限りなく広がっています。私はあと10年20年でグーグルやアップルを超えるような会社にすらなれるのではないかと思っています。その過程として考えると、現在は新しいフィールドをどんどん広げていきたいと思う一方、あまり社員は増やしすぎず、厳選したいと考えています。新しいフィールドにトライできる人財を集め、リーダーとなる人財を育てることも、事業の成功と並んで重要な目標です。

その目標は組織で共有されているものなのでしょうか。

少なくとも幹部クラスまではほぼ完全に共有できています。当社の幹部はこのような目標にわくわくする人達ばかりですから、マインド的に他の会社に行ったら浮く人財が多いと思いますし、実際にこれまで浮いてきている人も多いようです(笑)。

どのような人だと他社では浮いても御社に当てはまるのでしょうか。

若くして修羅場に遭遇したために、飛びぬけた人財です。飛びぬけた成長を遂げたものの、元の会社にその次のステージが用意されていなかったため、当社に来たという人が多いですね。

修羅場経験のある人材をさらに育成することをお考えなのですね。人材育成を目標に掲げていらっしゃいましたが、それは純粋に「やりたい」というお気持ちからなのでしょうか。

人財育成を目標に掲げる一つの要因として、私自身の前職での経験が影響しているのだと思います。私はこれまで本来リーダーになれるだけの能力も意欲もあるはずの人財がチャレンジする機会を与えられず、能力や意欲をもてあましている、という実態を目の当たりにして強い違和感を感じていました。ですから能力や意欲をもてあましている人たちのユートピアのような場所があるべきだと考えています。しかし経営者がいくらそのような環境を作ろうと思っても、事業が伸びない以上そのような環境は生み出せません。ですから、これだけ事業が伸びていて、しかも競合がおらずマーケットが広い当社の事業を通じてならそのような機会が提供できそうだと思うのです。ですから「やりたい」というよりも使命感の方が強いです。

新卒採用でも中途採用でも育成のことをお考えになって採用されているのですか?

中途採用の場合は年齢が高ければ高いほど、育成は考えていません。「あなたはもう育っているのだから、自分の責任でやるだけでしょう」という考えです。当社は「筋肉質」よりも更に強力な「超筋肉質」な組織を作りたいと思っていますので、機能をあまり増やしすぎたくないと思っています。ですから企画ができる人、自分で走れる人が正社員で、その周辺は、専門家や派遣、インターンなどの方々に力を発揮してもらいたいと思っています。そのため、ここ最近中途採用のレベルを引き上げており、人材紹介会社に登録する人の中でもトップクラスの人財を紹介してもらうようにしています。面接はそこで出てきた20人~30人に一人が合格するといった確率です。面接では能力面だけではなく、価値観や志向が当てはまるかどうかをしっかりと見ているので、非常に狭き門になってしまうのです。逆に言うとその門を通ってきている人財に自責思考ができない人や自分の人生を自分で決めるというプライドのない人はいませんので、育成というよりもやりたいことに対するフィールドを提供し、一緒にスクラムを組むだけで十分なのです。

そのレベルの経験者採用は非常に難しそうですね。

そうですね。しかし、その層が社内のロールモデルになる層でもありますから、重要度は高いと考えています。その層のレベルによっては、新卒でどんなに優秀な人財が入ってきても育ちませんし、離職してしまいますから。今ようやく背中を見せられる人財が何人も出てきているので、非常に良い状況です。

では新卒の採用はどのようにおこなわれているのでしょうか。

新卒はキャリアも何もないですから、一番見ているのは、人生を通じて何かを成し遂げたいという使命感、一言で言うと「志」です。本当にそう思っていれば、アルバイトであってもサークル活動であっても何かしらきちんと取り組んでいるはずです。人を採用している経営者は皆同じだと思いますが、私はこれまでに1000名以上面接しています。またその中の10%くらいが実際に入社しており、後追い調査までしていますので、人を見る目にも自信がつきました。ただし、この世界に100点満点はないので、そこは心に留めています。当社は面接が長く、幹部の面接だと3時間、新卒でも最終面接は2時間くらいかけておこなっているのですよ。

それは長いですね。面接される側も疲れてしまうのではないですか(笑)?

疲れてしまう人もいるでしょうね(笑)。ただし、あえてそうしたいと思っておこなっているわけではなく、話していて面白いので盛り上がってしまった結果なのです。さらに採用したい人財に対しては“口説き”もおこなわなくてはなりませんから、話した後に自分のプレゼンをして、質問も受け付けていると、どんどん時間が長くなってしまうのです。もちろん短い時間で終わる場合もありますが、3時間の面接であっても「あっという間だった」と言って帰る応募者はやはり価値観も近いですし、採用に至るケースも多いですね。