介護業界の中の「マネジメント」に興味を持ってもらうのが課題

樋口：
新卒の人たちに敢えて教育をするとしたら、どんなことをするとより成長にアクセルがかかるとお考えですか。

座学のような知識を得る、覚える研修は、それが重要なことは間違いありませんが、当社では本線ではないと思います。我々アライブとしての事業の本線は介護付き老人ホームという現場です。ですから、その現場でのOJTや実際の仕事を通して学んでもらうというところが一番本質部分なのかなと思います。現場は、「想い」の世界から理解していくところが重要なことは事実ですが、その一方で想いの世界だけではだめなのです。それを気付いて学べるのは現場ですから、いろいろな役割を通じて気づいてもらいたいのです。

お話を伺っていると、現場感覚の対人能力、いわゆるホスピタリティを要求されるような、あるいは介護のスキルを要求される部分と、マネジメントとして合理的に判断しなければいけないところの両方が求められていて、その間のバランスを模索させようとしていらっしゃるのだと思いました。そうだとすると、両方を知った上で、特にマネジメント側をよく知ってる人が上司として想いによりすぎないようにフィードバックする、というやり方がいいかもしれませんね。

そうですね。ですから新卒採用した後にどういう環境を与えるかが決定的に重要だと思っているんです。想いの世界に偏りすぎない組織力のある老人ホームという場を作っていくことは必要ですね。現在会社全体としても模索しているところです。

そこは介護という業界が難しいところで、「現場が好き」感覚の応募者が多いのではないかと想像します。そうなってしまうと現場にとどまってしまい、事業スタッフの方向に進められない人材が圧倒的に多いんですよね。そういう意味では、事業をやりたい人や、営業に興味がある人の方が覚えは早いので、採用をご支援する立場からそちらの人材を採用するようにシフトしていくサポートをすることもあります。ただし、そのような人材を現場に入れるとやっぱり最初は火花が散ったりすることもあるんですけどね。

実は去年そのトライアルをやってみたんですよ。私どもの新卒採用のホームページでも、アライブとして求めている人材はマネジメント人材なんです、現場のスタッフではありません、したがってこういう資質を求めますと表現しました。キャッチコピーも、「末はマネージャーかリーダーか」みたいな形で、かなりその色を強めました。実はそれまで説明会に来る人たちを見ていて、我々が求めているものと説明会に来てくれる人とのギャップが大きいなという危機感を強く持っていました。もちろん中には合致する人材もいるんですが、どうしても少数派だったのです。それで去年１年そういう形でやってみたんです。その結果、１年前と比較すると説明会への参加者がガクンと減りました。「アライブメディケアはこういう意思を持ってこういう新卒採用をしたいんだ」と言っても、やはりカテゴリは介護の事業会社なんです。したがって説明会に来て面接に進んでくれた人は、だいたい平行して介護業界を受けています。説明会への参加者が減ってしまったのは、応募者が介護という仕事に対して抱くイメージと、我々が打ち出した方向性とではミスマッチだったんだろうなと感じています。

恐らく応募者はまず「介護」というキーワードで検索して御社にたどり着いているはずですから、そこを志望する学生でマネジメント志向を求めると、志望者を絞ってしまうことになるのでしょうね。中小企業がマネジメントレベルを採るというのは本当に難しいので、せっかくですからグループ会社同士で、幹部候補人材を採用し続け、いい人が来たら配属を考える、というのも一つの方法のように思います。

ひとつ懸念されるのは、親会社の荒井商店は不動産事業なので、介護事業とはあまりにも違いすぎていることです。もしこの2つをまとめて採用したときに、果たして実際に機能するかは検討の余地があると思います。今年は去年に比べると、もう少し現場色も出した上で、会社としてのリーダー、マネジメント方向を打ち出すようにしました。そのようなメッセージを受けて来てくれた人の中で、人物を見て、現場型の人物であれば現場型で成長していただければいいし、組織視点で会社なり事業なりの全体に貢献することに興味があってそういう資質を発揮できるような人であればそういう方向に進んでもらえばいい、と考えています。

今日はお忙しい中、ありがとうございました。この業界の中でトップクラスの御社のお話を聞いて、とても興味深かったです。