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人事・採用に科学の視点を 横浜国立大学大学院国際社会科学研究院 (服部 泰宏 氏)

入社後に教育して伸びること、伸びないこととは?

樋口:
先生が学生と接していて、今の時期に就職活動をするとことごとく落ちるだろうけれども、一皮むけたら輝きそうだ、と思われる学生はいるのでしょうか。

服部:
います。就職活動がうまくいかなかったときにサポートすることを目的に、自分のゼミの中で結果予測をしていますが、ある程度当たります。そこそこの大学に通っていれば、おしなべて論理的思考はできますが、就職で成功している学生とそうでない学生の違いは短期間に自分の良さを表現することができるかどうかです。これは営業でも求められる能力ですので、ある意味理にかなっています。他方で長期的に組織の中で頑張るために必要な能力は必ずしも前述の能力とは一致しません。じっくりと思考する力、2、 30年スパンで物事を見ることができる力も大切だと思うのですが、今の採用の仕組みだとそれは評価されにくいのです。

私は「バランスの良い人材は大企業と相思相愛なので、中堅・中小企業はバランスの良い人材を狙うと勝てない」と考えています。良い学校を出ていて、素直で、瞬発力もあって・・・という人材を採用しようとすると、最後にはどんどん辞退されてしまいますから。それよりはとんがった人材の駄目な部分に目をつぶって採用したほうがよいと考えていて、当社でも実験しています。例えば、大学はそこそこの学校を卒業していても、人にあまり興味がなくて誤解されてばかりのような人材です。このような人材が仕事の上で評価を得られるようになるには4~5年かかります。それまでは顧客先に出せないのですが、ある時急に化けて伸び出すのです。それは経営者にとってゾクゾクするような喜びです。ただし、それは心情的な話で、経営の合理性の観点から考えると、学校の教育や親のしつけが担うべき部分を企業が被ることは本当に仕方のない話なのかという迷いもあります。

バランスが悪いけれど伸びそうな人材というのはわかりにくいので、先ほどおっしゃっていた合宿のように少しでもリアリティの高い場面設定をしないと見抜けないでしょうね。
各企業が同じ評価基準で人を採り始めているのであれば、中小企業は絶対に違う軸で採らないと戦えません。つまり自分の会社が何を求めるかを大企業よりももっとクリアにしておかないといけないのです。ただし、その軸は本当に入口で見なければならないものか、育てれば伸ばせるものか見極めることが大事です。敢えて言い切りますが、論理的思考や分析力は、育成で何とでもなります。ですが、人に対してきちんと共感しながら会話できるかどうかは採用の段階である程度出来上がっているものなので、絶対に見抜かないといけません。

当社でも新卒採用を初めた時に、何を捨てるか考えたのですが、実は先ほど申し上げたような自己認識やしなやかさは捨てました。その代わりに求めたのが純粋な向上心と根性です。この2つがあれば、初めは厳しいフィードバックを受けて泣き出したりしますが、そのうち根性がそれに勝ってくるようになり、自己認識ができるようになります。またしなやかさも最初はなくてもだんだん熟してきて物事がわかるようになります。ですからこの2つははじめに備わってなくても何とかなるというのが私の考えです。ですが、向上心がない人はあがき苦しみを乗り越える力と、その先に何かあるかも知れないという期待感がないので、どうしようもありません。

就職活動で難しいのは、今おっしゃったような要素は長期的に顕在化してくるもので、あいまいなので見抜くのが難しい点です。後々影響が大きい大事な要素ほど見えにくいのです。一方でパソコンスキルや英語のようにわかりやすいスキルは顕在化しやすいですが長期的にはあまりインパクトを持ちません。

ところで先生の研究対象はどのくらいの企業規模を想定されているのでしょうか。

企業規模による差異を出すために10000名、1000~2000名、数百名の企業に分けて並行してプロジェクトを走らせています。

最終的にはどのような形で発表されるのでしょうか。書籍も出されるのですか?

基本的な枠組みや研究の途中経過までは現在書いている書籍に盛り込む予定ですが、実際には長い期間データをとっていかないと判断できない部分もありますので、長期スパンで進めていく予定です。論文はもちろんですが、このテーマは学会で発表するだけではほとんど意味がないと思いますので、本と論文両方で皆さんに知っていただきたいと考えています。私は商売をしていくわけではないので、情報を公表しながら、一緒によりよい方向に進むよう、議論ながら進めていきたいです。それからこの問題には、実際に就職活動を潜り抜ける学生の視点も欠かせません。横浜国立大学経営学部服部ゼミでは、「日本企業の採用」について、今後様々な調査を実施して、情報を発信していきたいと思っています。

本日伺った話は驚くほど私が会社を経営しながら学んだことと似ていました。興味深いお話をありがとうございました。

 

 

 

CompanyData

■氏名:服部泰宏
■所属:横浜国立大学大学院国際社会科学研究院 兼 経営学部
■職位:准教授
■採用学プロジェクトアドレス:info@saiyougaku.org
■同facebookページURL: https://www.facebook.com/saiyougaku