変化の時代におけるリーダーシップには、これまで以上に「方向感を示す」ことが大切
樋口:
このような混沌とした時代において、日本に求められるのはどのようなリーダーシップでしょうか。
福原:
今の時点で新しいリーダーシップ像を描けている方はなかなかいないとは思います。ただひとつ、日本にとってチャンスなのは貧困格差が他国ほどは激しくないということで、それはひとつのテーマになるのではないでしょうか。このまま時代の変化が進めば格差が拡大するところ、私たちのAI(人工知能)やTeach For Japan(注:教育格差に挑むNPO)の活動がその悪化の歯止めになれればと思っています。例えば教育でいえば、プログラマーであれば今後も仕事につける可能性が高い、そして語学力を持てば力をつけられる、といったことですね。
ありがとうございます。
私は、現代におけるリーダーシップには3つの要素が必要だと思っています。まず一つ目は「自己理解」。資質はもちろん、自分のオリジン・世界・歴史まで含めて理解すること。二つ目は「モチベーション」。頭角を現したいとか社会に貢献したい、上昇したいというエネルギーです。三つ目に「フレキシビリティ」。変化の時代において、過去を捨てて適応するということです。
今後はこの要素だけでは不十分かとも思うのですが、いかがでしょうか。
仰って頂いた3つの要素を持ったアダプティブなリーダーシップはベースとして非常に重要だと思います。ただ、敢えて言えば、それに加えてビジョンを提供する・方向性を示す、という要素が加わっても良いのかもしれません。自己理解と多少関連があるかもしれませんが。
私がここ半年くらい、設立当初から意識的に変えているのは、決めるところはみんなが反対しても自分が強引に決めるということです。皆で議論はするが、自分の持つビジョンをはっきりと伝え、突っ走る。市場資本主義という大きな方向性がほころび、シュンペーターが主張するように社会主義の時代が来るかもしれないし、ブータンのような幸福の最大化を指標とする方向も良いかもしれない、要は解がない状態なので、私自身が間違えているという可能性があることが怖いところではありますが、その中でもがいているというのが正直なところです。
別の観点で、これからの日本を考えた際、GDPという指標では私たちは成長を実感できないということもあります。残念なことですが、今後市場が成長するという見立てはなく、また東南アジア諸国のように若者にエネルギーがあるということでもありません。その中で、永遠なる成長を実感できる方向感を打ち出せるリーダーシップは重要になるかもしれませんね。
確かに、方向感をだすというのは当然リーダーとして大事でしょうね。
その観点で言えば、日本はもう少し人それぞれの違いを素直に受け入れ、時に意見がぶつかるようなことが増えてもいいのかもしれません。先日大学の同窓会で、一流企業の役員を交えて話をし、ずいぶん違う人生を歩み、異なる意見を持っていることを実感しました。
同感です。各々がビジョンを持った上でぶつかり合って、良い方向にビジョンが動いていけば良いわけですよね。ただ、難しいと思うのは、日本企業で議論をしても意見が上手くぶつからないことが多いという点です。多くの日本企業では、ぶつからないことに気を使い、意見を戦わせることを許容しない部分が少なからずあるかと思います。これは美徳でもあり、仕方がない部分だとも思うのですが、イノベーションやエネルギーを生み出す上で時にはこうした対立も重要ですよね。