経営者人事対談 > インタビュー記事一覧 > Vol.046 特定非営利活動(NPO)法人 フローレンス(駒崎弘樹氏)

優秀さは組織にとってもろ刃の剣 特定非営利活動(NPO)法人 フローレンス(駒崎弘樹氏)

優秀さよりも価値観の合致が大切


2012年8月
福島県南相馬市に子供を対象とした屋内公園
「ふくしまインドアパーク南相馬園」を開設

樋口:
やりがいがなかった?

駒崎:
約2年間社長をやったのですが、当初は学生で社長の自分ってかっこいいみたいな、しょうもないことを自分の拠り所にしていました。でも、1年もするとモチベーションが下がってきて、なぜこれをやっているのかなという根本的な問いが生まれてきたんですね。当時はITベンチャー真っ盛りの時代でしたから、六本木ヒルズに住んでホームパーティーをして、外車を乗り回すのがステータスみたいな風潮がありました。でもそれに何の意味があるのだろうか、それが自分のゴールなら、なんてつまらないんだろうと思ったんです。自分が本当にやりたいことは何なんだろうという自問をして行き着いたのが、社会のためになりたいとか社会の問題を解決したいといった、思いだったのです。

今、駒崎さんの充実感って、百点満点で何点ぐらいですか。

充実感ですか。充実しているかどうかを自問したことがないんですが、どうでしょう、120点ぐらいじゃないですかね。良い意味でも悪い意味でも、密度高く日々を生きているかなとは感じています。

すごいですね。フローレンスを立ち上げてからの8年間で、駒崎さん自身、ものすごく成長されてこられたのだろうと想像します。創設時には今の駒崎さんの状態というのは想像できなかったでしょうね。

そうですね、まったくできませんでした。

ここからはフローレンスを設立してから駒崎さん自身が学んだこと、いわば経営者、人事的な側面からお伺いしたいなと思います。駒崎さんがフローレンスを設立して、というか、組織ができて最初にご苦労されたのはどんなところだったのでしょうか。

苦労は毎日しているので、どういうこととなかなか言い切れないんですが、NPOの経営は社会性と経済性を両立しなければならないんですね。NPOというと赤字でもいいと思われる方が多いのですが、そんなことなくて、企業と同様に黒字にしていかなければいけません。ですからその点ではやはり人並みの経営者と同じように苦労してきました。
特に我々NPOが携わる領域というのは、総じてビジネスとして成立しにくい領域になりますので、そこを乗り越えるビジネスモデルをいかに作っていくか、という点での苦労がやはり大きいですね。しかもビジネスモデルが完成したらそれで一安心というわけではないですし、実践していくことの大変さや人が人(の命)を預かるという商売の大変さから逃れることはできませんから、それらと格闘していくのはやはり大変だったかなと思います。

今現在もそうした現場の問題、課題と格闘しているのですか。

今はマネージャー層も育ってくれて、そうした問題に関与する機会は減りました。ただやはり大小関わらず問題は発生していますし、代表者としてそれらの問題から逃げることはできません。またマネージャーが育ってきたとはいえ、人を育てるというのは時間がかかることですから、優先度の高い仕事だと考え、しっかりと時間を使っています。

駒崎さんが一緒に働く仲間を選ぶときの優先順位を教えてください。どのような点にこだわっているのでしょうか。

第一にわれわれのビジョンに納得しているか、という点です。フローレンスのビジョンは「子育てと仕事の両立可能な社会をつくる」ですが、そこに関して何となくいいねと思っているレベルなのか、本当にそうした社会を実現したいと思っているかを見ます。つまり、そのビジョンこそがわれわれの存在意義だからです。例えばNPOで働きたいのなら別にフローレンスでなくてもいいわけですし、世の中の役に立ちたいというのもフローレンスでなくてもできるわけです。ですので、われわれのビジョンに共感し、あるいは達成したいと思えるか。そしてその深さがどの程度なのか、がなによりも大切かなと思っています。当社のスタッフの多くは、自分自身が子育てと仕事の両立で苦労しているとか、あるいは自分の親がそれで苦労をしてきたといった、何らかの原体験を持っているケースが多いので、そうした原体験をベースに、じゃあ一緒にそういう社会をつくっていこうねという形で話ができるかが境目かなと思います。それがなければ、どんなにスキルが高かろうが何だろうが双方にとって良くないだろうな、と思います。

採用に関していうと、それ以外はどうでしょうか。

優秀な社員が欲しいとみなさんよく言われますけれども、私は特別に優秀でなくてもいいかなと思っています。というのは、優秀さというのはもろ刃の剣で、あまり優秀すぎて、その人が欠けると組織が立ち行かなくなるという状態になってしまうのも困ると思うからです。ですから、何か突出してものすごく優秀で、神懸かって何でもできるみたいな逸材は特に求めていないですね。あと、スキルというのはその場に応じて、あるいはそのフェーズに応じて陳腐化したり、求められなくなるケースもあるので、やはり価値観の部分での合致が何より大事だと考えています。