経営者人事対談 > インタビュー記事一覧 > Vol.046 特定非営利活動(NPO)法人 フローレンス(駒崎弘樹氏)

優秀さは組織にとってもろ刃の剣 特定非営利活動(NPO)法人 フローレンス(駒崎弘樹氏)

ワークライフバランスに適応しにくいのは「まじめな人」

樋口:
すごく優秀だけど価値観が合わないので採用しなかったということもありますか。


「ふくしまインドアパーク南相馬園」パーク内

駒崎:
もうしょっちゅうです。ありがたいことに、MBAホルダーや立派な経歴の持ち主がたくさん応募してきてくださるのですが、フローレンスの価値観に合わないなと思えばやはりお断りしますし、求人広報にも、こういう人は合致します、こういう人は合致しませんとはっきりと書くようにしています。

それ以外に何か採用のときのこだわりはありますか。

フローレンスでは「多様性によって社会的イノベーションを起こす組織」を組織ビジョンに打ち出しているので、性別、年齢、国籍を問わず、さまざまな方たちと一緒に働いていきたいと考えています。そういう意味でワークライフバランス施策は大切にしていて、働きやすい環境づくりに腐心しています。

組織ビジョンには「日本のワークライフバランス化に貢献する」もありますね。端的に言うと、例えばこういうことを納得理解して、同じ仕事を短い時間でできる人、できない人には何か違いがあるのでしょうか。

できにくい人、適応しにくい人の共通点は、まじめであることですかね。つまり、能力がないからできないのではなくて、まじめに取り組もう、その仕事に対して誠意を持って100%完遂しようと思えば思うほど、なかなか100%の水準に到達しないので時間がかかり、でも目の前の仕事に対して責任感を感じているので、結果として残業も増えてしまうという負のスパイラルに陥ってしまうんですよね。 ですからそういうケースでは、最初にその人が持っている仕事感をリセットする必要があります。我々のコミュニティーでは納期あるいは定時までに仕事を終わらせることが誠実さであり、アウトプットの完成度よりも優先度が高いのだと。むしろ23時まで働いて完成度を100%にするほうが我々にとっては困ることなのです、といったことを伝えていきます。

なるほど。その人のもつまじめさの基準を変えていく作業なわけですね。その人を尊重しながらも、でもこの場では行動変容してねと言っているので大変ですよね。これは教育なのですか。それとも労働価値観の共有と捉えたほうがよいですか。

労働価値観の共有に近いと思います。採用広報で我々はこういうカルチャーなのだと宣言しているので、ある程度そうした考え方を理解できる人たちが集まってきますし、入社後のOJTの中でもそうした考えが前提として組み込まれていますから。例えばミーティングに関しては1時間できっちりと終わるのが当たり前、という状態をつくることによって、そういうカルチャーなのだと刷り込まれるわけです。ですから、常に教育しているというよりは、フローレンスで過ごしていくと自然とそうなるという感覚に近いかなと思います。

教育という言葉に違和感があるのですか。

教育という視点で捉えると、どうしても恣意性からは逃れられないのではないかと思ってしまいますね。あるべき姿を規定して、そうなってほしいとなると、どうしてもそこに、そのあるべき姿は本当に正しいのかという疑問が付きまとうはずだからです。なので、私は無理やりそういう鋳型にはめることは極力したくないと思っています。
あまり面と向かってがんがん指導するということはせずともミーティングをやっていれば自然とそうなっているよねと体感してもらう方が無理もないですから、そういう意味では教育、育成という感じは出してないですね。みんなが自ら育つというか、自ら成長していくのを後押ししていけるような組織でありたいねという話はつねにしています。

駒崎さんってもともと彼らの言うことを聞いて合わせられる優しいタイプなのか、本当は……

今の話だと、何かすごく優しい人みたいに思われるかもしれないですけれども、経営者なので、独断専行的に物事を進めていくべき場面では当然そうすべきですし、実際にそうしています。ただ、経営というのはいろいろな側面がないと成り立たないと思っていて、攻撃的になったり、守りの人になったりと、状況とタイミングに応じていろいろな言語を使い分けなければならないと考えています。
NPO経営は、通常の中小企業の経営と8割は同じだと認識していますが、2割違う点があるとするならば、ステークホルダー、関わる人が多いという点に違いがあります。つまり、ビジネスの世界では顧客と自分たちという関係性が中心になりますが、NPOの世界は、そのほかに寄付をしてくれる人とか、応援してくれる人、行政など、関わる人が多いんです。ですから、それぞれの立場に即した言葉が必要なんですよ。