経営者人事対談 > インタビュー記事一覧 > Vol.046 特定非営利活動(NPO)法人 フローレンス(駒崎弘樹氏)

優秀さは組織にとってもろ刃の剣 特定非営利活動(NPO)法人 フローレンス(駒崎弘樹氏)

ビジネスライクが通じるのはビジネス社会という1つの部族の中だけ

樋口:
すごいなと思うのは、お話を伺っていると、コミュニケーションにおいて結構何だかんだ、態度は別にして人を尊重するスタイルだなと思いますけど、それは素ですか。

駒崎:
そうですね、素かどうかはわからないですが、そうでないとNPOはできないというのが真実かもしれません。ロジックが正しくても、人はロジックだけでは動かないので。
ビジネスの世界だけであれば、お金をいただいてサービスを提供して、その質が担保されれば何も問題がないはずなのに、NPOの世界では、そうでない価値観の世界というのがあって、伝わる言葉をつかったり、わかっているんですよということを態度で示さなければいけないんです。そういう経験、試行錯誤を経て、何か違う言語として身に付いたのだと思います。
私がそのことにはじめて気付いたのは、ITベンチャー経営からこの世界に入ってすぐのことでした。あるプレゼンで、「ビジネスモデルはこうです」と自信満々に話をしたら、相手の方に「それが正しいのはわかったが、君を支援したいとは思わない」と言われてしまったんです。そのとき、ビジネスライクにウィン・ウィンでやれば話が通るというのは ビジネス社会という1つの部族の中だけの話だ。世の中というのはもっと多くの部族で成り立っていて、というかそっちのほうがもしかしたら大きいかもしれないということに気付いたわけです。

今の話って、きっと駒崎さんのモチベーションが上がった話ですよね。要するにコミュニケーションの多様性という話じゃないですか。

勉強になりましたね。今まで、社会=ビジネスと思っていたら、ビジネスというのは社会の中のごく一部の世界であって、もっと広い小宇宙がたくさんあって、その小宇宙ごとに話されている言語と価値観は違っている。だからその小宇宙ごとの話し方なり価値観というものを尊重しながらやっていかないと、この広い宇宙を旅することはできないんだと気付いたわけです。フローレンスを設立してから、そういう面は本当に勉強できたと思います。それまではビジネス用語という一言語だけしか理解できなかったんですが、多層的に世界があって、それらを繋いでいかなきゃいけない。そのために言語をいくつも持たなきゃいけない、と強く感じています。

現在の充実度が120%とさきほどおっしゃっていたのですが、それは大きく、やっていることのやりがい、貢献だけでなく、経営者として日々スタッフと接していてモチベーションを感じる部分もきっとおありなのではないかと想像するのですが、あるとしたらどういうところがやりがいなのでしょうか。

コミュニケーションを通じてモチベーションが高まっているか、というとそれはありません。なぜかというと、誰かによって左右されるモチベーションだったら、その誰かが変わるとモチベーションも変わってしまうからです。それでは折れやすいですよね。社員が常に優しくて何でも言うことを聞いてくれるか、といったらそんなことはなくて、反論してくるときだってもちろんありますし、基本的に仲が良いですが、やはりいろいろな葛藤は日々組織内にあるわけです。ですから彼らの態度いかんによって右往左往してしまうようでは自分というものを保てません。
かといって、事業がうまくいっていれば楽しくて、うまくいってなければ楽しくないのかというと、それも山あり谷ありですから、それでモチベーションが上下していたら精神がもたないと思います。ですから、何かそのもっと手前で、自分がやっていることへの確信と、確信という言葉では足りない、自分こそがやるべきなのだという天命みたいなものが自分を支えていると考えています。

なるほど、それが充実感120%の源泉ですか。

何か充実という言葉ではないですね。充実しているかどうかもどうでもいいわけです。とにかく自分はこれをやるのだという思いです。

かっこいいですね。かっこいいというのは軽い意味ではなくて、いや、いいですね。いいですねというのと、幸せですね。

よく幸せかどうか聞かれますが、あまり自分が幸せかなとか考えたことがなくて。
別に自分は幸せじゃなくてもいいと思っていて、幸せであろうがなかろうが、もうやり遂げようという思いだけです。

言葉にするとちょっと軽々しいですが、わかるような気がするし、うらやましいなと思います。また、天命という言葉も出ましたし、そのことをやりたい、やるべきだというか、自分はやるんだというお話は感動的ですが、そういうことを強烈に感じることはそれまではなくて、フローレンスで取り組んでいることそのものが強烈にそういうことを感じながらやっておられる、駒崎さんにとって初めてのことなわけですね。

そうですね。ITベンチャーのときにはあまり、これは自分でなければ駄目だなと思えなかったです。でも、この仕事は自分が創業したというのももちろんありますし、人の役に立っているというのが目の前でわかることなので、そういう意味では感じやすかったというのもあります。困っているという声をたくさんたくさん聞けば聞くほど、自分がやらなければと思いやすいですよね。

今までの駒崎さんの人生って、何かそういうものがなかなか見つけられなくて、はじめて見つけたという感じなのかなと思ってお聞きしていたのですけれども。

でも、そんなに自分探しに一生懸命だったというわけでもないんですけどね。病児保育という、社会問題に出会ったという感じです。病児保育の問題というのは社会問題ですけど、いわゆる誰もが感じる社会問題ではなくて、自分の肌感覚として、これは許せんなと思う問題なわけです。自分の母親がベビーシッターをしていたことがきっかけになり、「ああ、そういう状況なんだ」「これはもう何とかしなければ」「自分がやるしかない」と。自分の一生をかける問題に出会ってしまったというところです。

なるほど。本日は貴重なお話をありがとうございました。

駒崎弘樹氏ブログ
http://komazaki.seesaa.net/

駒崎弘樹氏twitter
http://twitter.com/#!/Hiroki_Komazaki

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特定非営利活動(NPO)法人 フローレンス

■会社名:特定非営利活動(NPO)法人 フローレンス
■代表者:代表理事 駒崎弘樹
■所在地:東京都千代田区飯田橋4丁目8番地4号第二プレシーザビル502号室
■URL:http://www.florence.or.jp/
■事業内容 :
 ・病児保育 非施設型(こどもレスキューネット)事業
 ・病児保育 施設型(まちかど保健室)事業
 ・おうち保育園事業
 ・伝える変える事業
 ・ひとり親家庭支援(寄付会員制度)事業
 ・働き方革命事業
 ・コミュニティ創出事業