経営者人事対談 > インタビュー記事一覧 > Vol.052 ソフトバンクモバイル株式会社、ソフトバンクBB株式会社、ソフトバンクテレコム株式会社(甲田 修三氏)

人材活用のために科学的な人事を ソフトバンクモバイル株式会社、ソフトバンクBB株式会社、ソフトバンクテレコム株式会社(甲田 修三氏)

人事部には営業マインドが必要

樋口:
孫さんをはじめとする経営幹部の人たちは、セルフモチベーターである社員の方を鼓舞する上で、機会を与える以外にどのようなことをされていたのでしょうか。

甲田:
納得するまで説明をしてくれました。今はそういう場面には出ませんが、当時は孫自身が議論や人の意見を聞く場を作ってくれ、納得するまで議論が続くこともありました。そういう場をもつと、もう孫の志に強く共感してしまうのです。

納得感がある、というのは具体的にはどういったイメージなのでしょうか。

皆で目指す方向を共有し、目的を実現するためには何をなすべきかをとことん議論するんですね。
できない理由を探すのではなく、出来ない要因を克服する発想が重要で、そんなアイデアであれば皆が耳を傾けてくれます。私も、やったことがないことをできないと決めつけるはおかしいと考えるようになり、チャレンジする意欲を掻き立てることが出来たと思います。こうした風土で育っていく中で、入社以前と比べてより高い視点で成長目標を考えられるようになりました。

トップとのコミュニケーションは、雑談のようなイメージで行われるものなのですか、それとも定期的に面談を実施するような形なのですか。

全て会議です。孫や副社長の宮内(ソフトバンク株式会社 取締役 宮内 謙 氏)をはじめ、皆が「何とかしたい、何とかするんだ」という同じ方向を向いて議論をしますし、その中でアドバイスも受けます。逆にできない理由をとことんつぶしていくのが私の仕事だと思っています。できない理由を伝えても意味がないわけですよね。何でもやっていいんだったら回避できないことはないわけで。成功するための提案であれば、全部引き受けてくれますから。

会議を通じてその実現のためにみんなで議論していたのですね。では、それぞれのセルフモチベーターが仕事を作って問題を解決していく一方で、トップの役割は大きな方向性を示すことだったのでしょうね。

大海原で目的を見据え、方向を示すのがトップの仕事だと思います。走って渡れると言われると、渡ってみたくなってしまうんです(笑)。

次に、現在専任なさっている人事の仕事についてお伺いします。これまで経験されたお仕事と比較して、人事という仕事に感じる面白みややりがいは何ですか。

会社全体にわれわれの働きが少なからず影響するというところです。
人事の仕事は、ソフトバンクの組織力向上が自分たちの考えにかかっているわけです。特に2005年度の3,000人の採用や、いろいろな会社の買収の局面にかかわってきた私にとって、同じ風土を作り上げていく、同じ人事制度にしていく、差別なく処遇することなどを通じて組織を作り上げる人事という仕事は、その影響力の範囲や中身の濃さからも、大変充実していると感じます。
また、本当に優秀な人材を見つけて、ソフトバンクに振り向かせて、入社させて育てていくというのも、一つの大きな醍醐味ですよね。

人事の仕事は効果が見えづらかったり、ネガティブな仕事が多いというイメージを持たれたりすることがありますが、営業や経営計画といった成果の出やすい仕事と比較して楽しめないということはなかったのですか。

そうですね。同じことを繰り返していたら進歩はありませんが、毎年新しいことにチャレンジできることは魅力的です。
例えばどうやれば制度がよくなるかを考える際に、単にお金をかけて福利厚生を良くするというだけでなく、どのように従業員の意識を変えていくか、会社の意識を変えていくかなどを新しい思い切った発想で考えるのです。また、考えた仕組みを実現する上でも、効果を最大化するにはどのように会社を巻き込んで実行していくべきか検討しなければなりません。
そのプロセスはとてもやりがいがあるものですし、ものまねや去年と同じものを繰り返すということは全く考えていません。

お話を伺っていると、目の前に課題があって、その解決を実現するという基本姿勢は、営業や経営企画をやっていた際と変わっていないように感じます。

そうですね。今の人事本部は、組織人事は営業で、採用が仕入れ、人事企画はソリューション、付加価値を付けるというのがそれぞれの仕事のイメージです。人事本部にいるのは、営業のマインドのあるメンバーばかりです。

やはり人事も、営業のマインドを持った人が必要でしょうか。

必要だと思います。そこが人事に必要な基礎能力ではないかとすら感じます。重要なのは顧客にサービスを提供しているのだという意識と、分析能力なのです。例えば制度や法律は専門家に頼めば知ることができます。一方で、世の中のことや経営者の心、会社の方向性やあるべき姿というのを判断できる経験を持った人は貴重です。
また、説得力も必要です。社内の説得は社外より大変ですから。その調整力やノウハウは、勉強ではわからない、経験してはじめてわかる部分だと思います。

先ほど、人事には営業マインドを持った方が多いとおっしゃっていましたが、そういったチームは甲田さんが作られたのですか。

基本的にはそうです。希望職種はおそらく営業だというメンバーを集めていますし、ただの事務屋として指導するのではなく、営業のような働き方をさせていますので、今でも営業色の強い部署になっていると思います。

営業経験者だけではなく、営業タイプの人たちを集めているのですね。

新卒から人事に来るメンバーと営業部門からローテーションで来るメンバーがいますが、営業タイプという点では共通していると思います。