経営者人事対談 > インタビュー記事一覧 > Vol.052 ソフトバンクモバイル株式会社、ソフトバンクBB株式会社、ソフトバンクテレコム株式会社(甲田 修三氏)

人材活用のために科学的な人事を ソフトバンクモバイル株式会社、ソフトバンクBB株式会社、ソフトバンクテレコム株式会社(甲田 修三氏)

バックグラウンドに関係なくモチベーションを保つには公平・オープンな環境が大切

樋口:
営業出身の人事の方々が増えたのは最近のことですが、その点ソフトバンクはとても進んでいますね。

甲田:
営業のセンスがないと自分の力で部門を動かせないんですよね。私自身人事として務まってきたのは、これまで営業や経営企画、マーケティングを経験してきたからこそだと思っています。各部門の問題点も、机上の空論を提案しても実行できないだろうことも両方分かるんです。

甲田さんをはじめとする人事メンバーの仕事のやり方は、コンサルタントにも近いものがあると感じました。メンバーの育成ではどのような点を心がけていらっしゃるのですか。

入社数か月で、先輩後輩関係なく第一線で仕事をさせています。
例えば、採用担当なら説明会のスピーカーを一人で務める、部門担当なら入社一年後には本部長とやり取りをしているといったことをさせますね。役員とのアポも会議の設定も、私がやるのも新入社員がやるのも同じだと思っています。私でなければとれないということもありませんから。

今新入社員に実際に仕事を任せているというのは、自然にされているのですよね?

フラットな環境の中で仕事をしている結果です。早い子は2年目で勘所をつかみますから。

そのような環境だと、経験よりもモチベーションで差が付きそうですね。

そうですね。人事本部だけでなく、営業も1年目の10月には自分の担当を持ちます。ほかの会社では、2年程は先輩とともに仕事をするようですが。

ベンチャー企業のようですね。

もともとのベンチャー企業の精神は忘れないように意識していますから。それもあり、去年は「大企業病撲滅作戦」という企画をおこないました。匿名のアンケートを実施し、スタッフ部門含め、他部門について大企業病と思われる部分を指摘しあうのです。

御社の規模では聞いたことのない取り組みです。御社は、大企業としては驚くほどの勢いがあると感じます。甲田さんをはじめ、お目にかかった方には皆熱やエネルギーを持った方ばかりです。そういった部分に、所謂ベンチャースピリットが表れているのかもしれませんね。
このようなベンチャースピリットを維持する上で、甲田さんの立場としてはどのような人事戦略を意識なさっているのですか。

まずは、公平でオープンな環境を作りたいと思っています。平等ではなく公平です。努力が反映されるという意味です。不公平感はモチベーションを下げる原因になりますし、クローズな人事は従業員の信頼喪失につながります。
そのうえで、ソフトバンクの広い領域の中で、自分に合うポジションを見つけて、自分の力を100%活かした仕事をしてもらいたいと思っています。今、特に重点を置いているのは、将来を支える経営視点を持った人材の育成です。もちろん、全員がそういう環境になれるわけではないのですが、いずれにしても自分の力を最大限発揮できるような環境を見つけ、活躍してほしいと思っています。そのために、個々の成長を支えられるような環境を常に提供していきたいと思っています。ただし、受け身で待っている人には、残念ながらその環境は訪れないかもしれないですけどね。

数ある人事戦略の中で公平・オープンという部分を1番目に挙げたのはなぜですか。

私自身が人事の素人で、公平な判断ができているかを常に考えてきたからだと思います。社員数1600名の時に二千数百名採用したり、3、4社の人事責任者として仕事をするうえで、どんな素晴らしい制度や企画でも、オープンで公平でなければ浸透しない、役に立たないと感じたからです。等しくモチベーションを高めるうえで、公平でオープンな環境は重要です。

甲田さんの本質にかかわる、理念にも似た重要な価値観なのですね。こういった想いは、全社員で見たときにどのくらい浸透しているのですか。

ソフトバンク自体のスタンスもそうですから、全社的に伝わっているように思います。努めて発言していますし、他社と比べてもそう思います。オープンで公平でない状況を経験したことがないので、それが当たり前になっているのかもしれません。

その他に、普段から言い続けていることやこだわりがあることはありますか。

ここ2、3年は、従業員に関する情報を蓄積し、科学的な人事をすることに関心があります。人事は人と人とのつながりですので、情緒的になりがちです。しかし、経営を支える、従業員のキャリアを支援する、という観点から、弊社にふさわしい人材を育成・判断するベースとして、世間一般論ではなく、自社の科学的な根拠を持っておきたいのです。人事の仕事は、労働集約的なところがありますよね。これをずっと続けていくのではなく、少しでも科学的で論理的な、そしてソフトバンク的なものを作っていきたいと思っているんです。ビジネスにおけるマーケティングデータのように、キャリアログのようなものを人事で蓄積し、その中から人材活用ストーリーを構築したいのです。経験業務、異動歴、上司部下の関係と評価のパターンを解析し、評価にではなく人材活用のために使いたいのです。例えば、こういうアクションのときはこういうふうに彼は成長しただとか、やる気をなくしたといった分析です。

モチベーションやパフォーマンス、成長といった曖昧模糊とした人事の業務を、データ上で科学的にパターン化するのですね。

システムが発達し、ストレージが安くなった今はサーバーの容量を意識しなくてよくなりました。ですから不可能ではないと思っています。パターン化し、その人を活かすための仕組みづくりを目指します。